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第7話
家に着くと、既に家の前でふわふわの髪を揺らしながら紫苑は立っていた。
「あ、琉依くん!」
「わり…遅れた」
「ううん。まだ5分前だよ」
「ならよかった…。てか、お前はいつから外に出てたんだよ」
「うーん、さっき?」
えへへ、と笑って言う紫苑に、さっきじゃないことは明らかだった。
後ろに隠した紫苑の腕を掴んで、指を絡ませる。
「わっ、る、琉依くん?」
「…冷たくなってんじゃん。なにやってんの」
10月とはいえ、既に中旬。
最近はめっきり冷え込んでいる。
まして18時なんて、すっかり冬の空気だ。
「なぁ、馬鹿なの?」
「う…だって……楽しみだったから…」
「……わかってるよ。ほら、風邪ひかないうちにさっさと行くぞ」
「うん!」
あまり怒らずにいてやると、紫苑は嬉しそうに笑って俺のあとをついてくる。
「途中のコンビニ寄ってなんか菓子でも買ってくか?」
「うん!!お菓子パーティーしよ!それで春乃くんの好きな人とか聞き出そう!」
「女子かよ。そもそもあいつに好きな人とかいるわけねぇよ」
「そうかなぁ〜?」
「あいつ、俺ら以外の人間に興味ねぇじゃん」
「そういう琉依くんは?好きな子いないの?」
「そんなの……」
いるわけない、と呆れながら否定しようと紫苑の顔を見たとき、自分の感情にそれを否定された。
返事を促すように首をかしげて微笑みながら見つめてくる紫苑に、燻っていた衝動は、確信に変わり始める。
あぁ、やばい。
否定出来ない。
思わず立ち止まって反応できずにいると、紫苑が顔を覗き込んでくる。
「琉依くん?」
「……し…」
「し?」
「……なんでもない」
俺は今、どっちの名前を呼ぼうとした?
紫苑と紫庵。
どちらも同じ人間だけど、全く違う。
俺は、どちらに────────。
「……」
頭を振って思考をかき消した。
考えたところで無駄なような気がする。
逆に、紫苑に話を振ってやる。
「つーか、お前こそどうなんだよ、紫庵」
「え?ぼ、僕?僕はいないよっ」
突然振られた紫苑は、あたふたと首を振って否定した。
「女の子と話すの苦手だし…。恋愛、とかもよくわからないし…」
案の定な答えが返ってきて、ホッとしてる自分がいることに、もはや驚きはない。
大丈夫。
こんなものはなかったことにするのが一番いい。
そういうのは得意だろ。
表に出さなきゃいいだけなのだから。
「まぁ、お前自身が女みたいなもんだからな」
「なんで?!」
「髪ふわふわだし、ちびだし、細いし、白いし」
「ひどいよ!気にしてるのにー!」
からかってやれば、ムキになって対抗してくる。
「る、琉依くんだって、彼女さんいたことないじゃん!」
「まぁ、興味無いし」
「背が高くて、勉強もスポーツもできて、髪もさらさらで、顔だってかっこいいくせに!!」
「……それ褒めてんの?」
「え?あっ、ち、違うもん!」
「はいはい。お前にはそう映ってたのな。高評価どーも」
「違うったらー!」
まだなにやら言ってるのを無視して、再び歩き出す。
「ほら、コンビニ着いたぞ。さっさと買ってさっさと行かねーと」
「…むぅ」
不貞腐れながら俺を追い越し、コンビニに向かって突き進んでいく紫苑。
その後ろ姿に呟いてみる。
自然とでてきたのは、
「…紫苑」
馴染みあるほうの名前だった。
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