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第6話

家に帰ると、珍しく父親が仕事から帰っていた。 「おー、依吹おかえり」 「あ…ただいま。今日遅いんじゃなかったっけ?」 「それがさー、仕事だと思ってたやつ他部署のでさー」 「ふーん」 適当に返事をしながら支度をしていると、父さんが聞いてくる。 「お?どこか行くのか?」 「春乃が泊まりにこねぇかっていうから。紫庵と行ってくるわ」 意識せずに言ったのだろう。 次に来た、父さんからの質問の意味をしばらく考えてしまった。 「…春乃?紫庵?だれ?」 「は?だから─────」 そこまで言って、はた、と気づく。 思わず、カッと顔が熱くなった。 それをみた父さんが何かを察する。 「はは〜ん?いつもの3人でなにか楽しいことしてるな〜?」 ニヤニヤと笑って俺の顔をのぞき込む。 「…ほっとけ」 くそ。 無意識もいいとこだ。 まさか、自分がこんなにも当たり前のように馴染んでいたなんて。 「まぁ、父さんは依吹が楽しければそれでいいよ。あとは、仲良くやってくれれば」 「……」 たまにこういう顔をする。 笑っているような悲しんでいるような寂しいような、なんとも言えない表情。 母さんが死んでから、父さんはこういう顔をするようになった。 なんとなく、罪悪感でも背負っているかのように。 「…日曜の夜には帰ってくる。ちゃんとメシ食えよ」 「はいはーい。父さんだって自炊くらいできますよーだ」 「一応昨日作った惣菜は冷凍してあるから、なんかあったらレンチンして食べて」 「依吹は心配性だなー」 「心配させてんのどっちだよ」 言いながらちらりと時計を見ると、紫苑との約束の時間まであと少しだった。 「じゃ、そろそろ行くわ」 「気をつけろよー」 「ん」 靴を履いて、玄関のドアを開けたところで、父さんがからかいを含んだ声で聞いてきた。 「ところでさー、依吹の別名はなにー?」 「…っ、うるせぇよ!!!」

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