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第5話

あのあと、手紙を貰ったはいいがなんとなく読める気がしなくて、大して聞いてもないくせに、『授業中だから』と理由をつけてその場は終わりにした。 そして、一日が終わる頃にはまるで元からそうだったかのように、俺たちは『役』に慣れ切っていた。 「なぁ、琉依、紫庵。あした土曜だし、久しぶりにオレんち来ないか?」 「へ…?」 「わぁ!お泊まり会!」 「わぁ、て紫庵。お前なぁ」 「無理か?」 「いや…無理ではないけど。珍しいな、お前がそんなこと言うの」 「…そうでもないだろ」 そう言いながら、顔を逸らした春真が耳まで赤くしていたのを、見逃すことは無かった。 へぇ、以外。 普段ツンツンしてるくせに、こういう所があるからこいつといるのは面白いんだよな。 「じゃあ、とりあえず家帰って支度したら春乃の家に集合ってことでいい?」 「うん!」 「わかった。待ってる」 心無しか嬉しそうな顔をする春真。 こんな子どもじみた遊びでこいつらの意外な一面が見れるとは思ってもみなかった。 だいぶ長いこと一緒にいたのにな。 なんて、しみじみと思ってみたりもする。 「楽しみだなぁ〜」 紫苑の言葉にみんなで、ふっと笑いながら歩き出す。 道がわかれるいつもの道祖神まで、駄べりながらだらだらと歩いて、春真は右に、俺と紫苑は左に別れた。 「またねー!」 声とは裏腹に寂しそうな顔で春真を見送る紫苑。 「このあとすぐ会うだろーが」 「うん。そうなんだけど…なんかやっぱりこうやって別れる度に寂しい気持ちになるよ」 しゅん、と俯いた頭をポンポンと叩く。 「…髪の毛ふわっふわだな」 「…?そうかな?」 「なんか、わたみたいで柔らかくて手触りがいい。あんたに似合ってる」 「そうかなぁ…女の子みたいってからかわれるんだよね…」 口をとがらせる紫苑に、だからだよ、とは言わないでおいた。 「僕は琉依くんのさらさらした髪の方が好きだけどなぁ」 「女子から妬まれるからこれはこれでめんどくせぇよ」 「あはは、そっか〜」 くだらない話をしながら歩いているとあっという間に紫苑の家に着く。 「琉依くん、またあとでね」 手を振る紫苑に何を思ったか、言わんとしたこととは似ても似つかない言葉が、口をついて出た。 「…迎えに来てやる」 「え?」 「どうせ通りみちだし、迎えに来てやるから」 俺がそういうと、初めはきょとんとしていた紫苑の顔が、ぱあっと輝く。 「一緒に行こってこと?!」 「は、いや…そこまで言って…」 「嬉しい!」 「……んな、おおげさな」 ううん、と紫苑が首を振る。 「琉依くんからこうやって言ってくれるの、ほんとに嬉しい」 役に当てられすぎだ、と思う。 ふわりと笑った紫苑の笑顔に、知りたくない衝動が燻った。 「…っ、40分後くらいには来るから」 俺は言うだけ言って、そそくさと家に向かった。

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