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第4話

窓側で、一番後ろの席なのをいいことに、俺は、退屈な数学の授業時間を、机に伏して過ごしていた。 正直、数学なんて教科書読めば、普通にわかるし。 そんなことを考えていると、隣のやつが、つんつん、と俺の髪を引っ張った。 「…………」 顔を上げて、半目で睨む。 「……紫苑」 「ちがう!僕は、紫庵、なの!」 「………紫庵。失礼なことをしておいて、謝りもしないのか?」 「え…?あ、…ぅ、ご、ごめん…ね?」 小説に出てきたセリフを使ってやれば、紫苑は、眉をハの字にして言った。 ……ほんと、なんで神様はこいつを男にしたのかね。 女だったら、絶対モテただろうに。 今じゃ、いじりがいのありすぎるいじられキャラだ。 「………で?」 俺に怒られてしゅんとしてる紫苑に、デコピンした。 「ひゃっ?!」 びっくりした顔をしたあと、今度は痛みに眉をハの字にした。 「……」 不覚にも、紫苑のその行動に心臓が音を立てた。 つい、心の中でつぶやく。 こいつって、こんな可愛かったっけ? 今までそんなこと、気にしたことなんかなかったのに。 「…はぁ」 なに当てられてんだよ、俺は。 たかだか呼び名変わったくらいで。 感情まで忠実に再現する必要ないんだよ。 「……琉依、くん…?」 黙った俺を見て紫苑が心配そうな声をかけてきた。 上目遣いの視線から目を逸らして答える。 「で、なんか用だったわけ?」 「あ…うん。うふふ。これどーぞ」 嬉しそうに、にこにこしながら渡してきたのは綺麗に折られた小さな手紙。 「…は?」 思わず声もでるわ。 こういうことに一番消極的だと思っていた紫苑からの行動に、そろそろ戸惑いが隠せない。 そんな俺の気持ちに反して、子どものように無邪気に笑う紫苑。 なんとなく思った。 あぁ、もう、なんか、役に入り込んでしまった方が楽になる気がする…なんて。

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