1 / 10

第1話

タスメニア暦193年7月18日、『イリス・タスメニア不可侵友好条約』が締結されてから、5年の歳月がながれていた。 タスマニア王国では、雨期の長雨に悩まされていた。 例年とは違い、異常な大雨を各地でもたらし甚大な災害をもたらしていたである。 6月の雨期の時期が過ぎて、7月半ばになっても雨がおさまることなくなく続いていた。 隣国のイリス王国のイリ神殿に『()()い』の神事の為に、神官の派遣を依頼したのである。 「お声かけがあるまで、けっしてお顔はおあげにならないで下さいね。話せないことになっておりますので、お声は出されいようくれぐれもお気をつけ下さい」 と、従者に念をおされた。 神官が男だと不平不満がおこるかもしれないからだ。 タスマニア王国が依頼したのは、神事をより成功させる為の高位の神官であり、許されるのなら『巫女姫』を所望していた。 イリ神は『愛と戦いの女神』だ。 イリ信仰の原初であり最高峰であるイリ神殿は、イリス王国の王都イリアにあった。 最高位の大神官は王族の女性が(にな)っていた。 巫女姫という役職の神官は、王女もしくは未婚の王族の姫がなり、イリ神に一番近いものとして国民から崇め祭られる存在だった。 イリス王国の王族は国民に絶対的な信望を得ており、開祖からの血統を受け継ぐ純血の王族を『碧い血』と呼び尊んでいた。 そのような所以(ゆえん)から、タスマニア王国は女性の神官を依頼してきたのだ。 それほどに水害の被害が甚大で、神頼みを真剣に捉えていたのだった。 神官位最高位の『大神官』や二位の『巫女姫』が国元を留守にするわけにはいかず。 代わりに遣わされたのは、血統と身分は高いが廃嫡された王族だ。 まるで、神殿に幽閉されているような神力のない末端の男の神官見習いの僕だった。 建国から約100年後のイリス王国第5代カラシュ王の時代に、君主である王は一夫一妻制で第一子相続制を制度化した。 この王が、千年以上続く王国の(いしずえ)となる多くの事柄を明文化し制度を強化した。 それが1800年続く王国を維持し、揺るがない国力を保つ要因だった。

ともだちにシェアしよう!