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第10話

「黒衣が似合うと思ったが、おまえはやはり、白い神官装束がしっくりくるな」 と、タスマニア王が声をかけてきた。 王は神事が終わった結界の中に入ってきた。 一瞬で神域が霧散したのがわかった。 それを王も気づいたようだった。 「うちの神官長は老いてしまったので引退してもらおう。新しい神官長が必要だな。おまえならすぐに成れるだろう、第四位殿」 (たわむ)れに、僕に居場所をくれるという王に笑いかけた。 「残念ながら僕は無神官位だよ。神官長になるまで何年かかるかわからない」 王は切れ長の目を丸くさせた。 そんな表情も出来るのだな、この男は。 「イリス王はとんだ博打打ちだな。女神官ではなく男を寄越して、位なしとは」 と、王は苦笑した。 「自国で葬れないから、あなたにその役目を託したのだろう」 「死にたいのか?」 「殺してくれるんですか?」 「誰でもいずれ死ぬ」 「それ、答えになっていませんよ」 「死ぬ前に、私を(たばか)ったおまえに罰を与えなければならないな」 「裸踊りでもしろと?」 「それも悪くはないが、ところで神官殿はいくつになった?」 「この春に成人しました」 「16か。幼すぎるな」 幼い、と言われて腹が立つのはなぜか。 「そういう陛下はおいくつなんですか?」 「8歳上だ」 「何だ、その顔は」 「もっと年上だと思ったから」 「おまえは幼いな。声を聞くまで少女かと思ったが、男なのだな」 僕の胸元の(あわせ)から手が入れられた。 「胸がない」 「当たり前です、男ですから」 「おまえは高位の神官だ」 「何を言って…っ」 るんだ、と続けることが出来なかった。 タスマニア王に口に口付けされたからだ。 神官の口付けは額や足下にするもので、口にはしない。 そっと唇が離れ、 「陛下?」 「ガトーシュだ。レイクよ、(なんじ)にその名を発することを許す」 「……ガトーシュ」 「有り難くお受けします、だ。復唱しろ」 「有り難くお受けします」 と、言った後、 ガトーシュに額に口付けされた。 「おまえは私の者になったのだよ、レイク」 「え?」 「神の前で(ちぎり)を交わした」 「契りって何の契りですか?」 「一方的に交わされた誓約は無効ですよ」 「有効か無効かはレイク次第だ」 「何ですか、それ」 タスマニア王の言うことは、僕にはまったく理解出来なかった。 新月の夜空に無数の星が(またた)いていた。

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