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《相違》

翌日、夕方、菊之助の部屋にやってきた山形は、菊之助をモノのように扱い、抱き捨てる。 「っ、旦那様…」 菊之助が口付けを求めても、それに応じてくれることはなかった。 不思議な感覚に陥る菊之助だったが…その晩も、旦那様はやってきた。 頭巾を被り顔まで隠している。 菊之助の着物と湯を置き振り返る。 「旦那様…」 髪に触れようとするその手を、そっと取り話しかける。 「ッ、!」 驚いて逃げようとする旦那様に… 「待って、ください。お礼が言いたいのです」 「……」 「いつも、綺麗にしてくださりありがとうございます」 「……」 「なぜ、夜の旦那様は、お話ししていただけないのでしょうか?」 「……」 「なぜお顔を隠していらっしゃるのですか?」 「……っ」 旦那様は俯き、応えることなくお湯に浸した手ぬぐいを絞り、菊之助の顔を拭き始める。 「ありがとうございます、自分で出来ます」 その瞳を見つめ、ゆっくりと起き上がり、手ぬぐいを受け取る。 「……」 顔を拭き、乱れた着物を脱ぎながら身体を拭く菊之助を傍らで見つめている。 背中を拭こうと手ぬぐいを伸ばしていると、そっと近づいて手ぬぐいを受け取り、優しく背中を拭いてくれる。 「ありがとうございます…お優しいのですね」 そう伝えると…言葉は返ってこないが、 頰被りの隙間から見える瞳がわずかに微笑んだように感じた。 それから新しい着物を羽織らせようと、着物を広げ、菊之助の腕へ袖を通していく。 「旦那様…」 その腕に抱きとめて貰いたくて… そっと身体を寄せる。 「…!」 驚いたように手を止めるが… 見つめ合っていると…遠慮ぎみに、そろりと着物ごと抱き寄せられる。 「温かいです」 「……」 「旦那様…」 誘われるように…顔を、口許を隠す布をそっと取り外しながら、口付けを求める。 「……」 その求めに応じて、柔らかく唇を重ね… 何度か角度を変えて、唇についつくように、お互いを求め口付けていく。 ちゅ、ちゅっ、触れ合うたびに静かな部屋に響くオト。 お互いに身体の芯が熱くなり息づかいが速まっていく… 長い接吻を終えて、真っ直ぐ見つめ合う。

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