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迷子の宇宙人

覚えているのは、「ソラ」という名前と、自分が男だということ。 たったそれだけ。 「ソラ……何考えてるの?」 流れ星が流れる夜空の中、大きな真っ白なベッドが置かれている。 そのベッドの上でぼんやりと横たわり、そんなことを考えていると、銀髪の美しい男が僕を後ろから抱き寄せる。 昨夜の甘い雰囲気を漂わせながら、僕達はキスをする。 初めは啄むような可愛いキスをしながら、舌を絡めたり、唇を貪るようにだんだんと深くなる。 「ん……っふぁ……」 「ソラ、すごく可愛いよ……。僕の可愛い天使」 彼はすぐに僕のことを可愛いというけれど、別に美少年というわけではない。 黒髪の平凡な顔をした男だ。背も高いわけではないし、褒められるようなところは一つもない。 だから、彼が「可愛い」とか「天使」とか言うと、恥ずかしくて堪らない。 「ソラ、もう一回、君が可愛く乱れる姿が見たいな……」 「で、でも……ユノ、これから仕事じゃないの?」 「午前中は休んで、午後から仕事する。それまでは、君の傍にいたい」 ユノという青年の青い瞳が僕を熱く貫く。 彼の吸い込まれるような瞳を見ていると、つい何も考えられなくなり、頷いてしまう。 その返事にユノはうっとりと微笑む。 そのまま体位を変えて、彼が僕の上に覆いかぶさり、愛撫を始めると、急に周りがシューッという空気が抜けるような音とともに周りが白い壁に覆われた。 部屋の入口の方を見ると、フード付きのマントを羽織り、口元を隠した背の低い男が立っていた。 「お盛んな所悪いが、ユノ、君に衛星都市から通信が来ている。取り急ぎ伝えたいことがあると」 「アルビータか……今行く。ソラ、ごめん、行ってくるね」 僕の頬にキスをすると、服を着て、彼は部屋から出ていった。 代わりに背の低い男、アルビータがソラの傍までやってくる。 「ソラ、体の調子はどう?何か思い出せそう?」 「体調も特に悪いことはないよ。でも、やっぱり何も思い出せないや」 「……何か一つでも、思い出せればいいんだが」 「ごめんなさい……」 「いや、ゆっくり思い出せばいい。案外リラックスしている時の方が思い出しやすいという」 「うん。そうだね……。ねぇ、今日もこの中を散歩してもいいかな?」 「ユノから許可を得ているし、大丈夫だ。ただし、”9番”の部屋にだけは入らないように」 「うん」 アルビータはそれだけ言うと、部屋から出ていこうとしたが、「そうだ」と振り返り、ソラに再度声をかけた。 「肉体的に愛し合うことは、精神的愛情を増幅し、精神的幸福度を増長させる。ユノも以前より仕事に身を入れるようになったし、私は嬉しく思っているが、肉体的疲労も蓄積される。ユノがせがんでも、あまり無理のないように相手するんだぞ」 真顔で忠告をしてくれたけど、それって要するに「ヤリ過ぎるなよ」ってことだと遅れて理解して、恥ずかしくなった……。 アルビータが離れた後、身支度を整えて、起きることにした。 部屋を出て、真っ白な廊下を歩いていくと、壁一面に透明なガラスのようなもので覆われたテラスのようなところに出た。 そこは星が瞬く宇宙。 テラスには僕のような人型ではなく、茶色の毛に覆われた獣の頭をした人もいる。 ここは異星人たちが乗る宇宙船。 記憶喪失の僕を拾ってくれた船だ。

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