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第6話 不揃いのカップ

 武林が風呂から戻ってきた後、佐野も続いて浴室へと向かった。  いつもより入念に体を洗ったが、気が急いてさっさと出てしまった。  そして気づくと、武林と2人ベッドの上で向かい合っていた。 「優、全身赤いけど、逆上せたか?」 「だっ大丈夫っ」 「……さっきのキス、嫌だったか?」  武林が凛々しい眉を寂しそうに下げているのを見て、佐野は勢いよく首を振った。 「ちがう! いや、なんか、今までは全然平気だったのにさぁ……それがわかんないくらい、ドキドキしてひゅっ」  そして噛んだ。別の羞恥まで込み上げてきて、佐野は手で顔を覆い隠し、武林の横に倒れこんだ。  耳まで真っ赤に染まっているのを目にした武林は、ひどく喜んだ。佐野のくるりとした髪を撫でながら、ゆっくりと覆いかぶさった。 「優ー、こっち見てくれよ」 「うぅ……。んんっ!」  しぶしぶと手を外した途端に、武林に顎を掴まれ、唇を食まれた。  チュッ……チュッ……と音を立てられながら啄まれたかと思うと、べろんと舐められ、食まれた。  初めは恥ずかしさのあまり、固まっていた佐野も、すっかり力が抜け、もっともっとと武林の頭に手を回し引き寄せ、口内に舌をねじ込ませた。  一瞬、驚いた武林だったが、求められたことに喜びを感じ、蠢く佐野の舌に自らの舌を絡め、吸いついた。 「はぁ……っ」  出ていく舌を追いかけて、佐野の口内を犯すように、歯列を舐め、侵入し上顎を愛撫した。  もっと感じたいと唇を離し、着ていたものを脱がし合った。  下着も脱ぎ去り、見慣れていたお互いの裸とキスだけでそそり勃った2人の陰茎が明かりの下にさらされた。  女性のように柔らかな体や豊かな乳房もない。骨張り筋肉のついた体がとても美味しそうに思え、こくりと喉が鳴った。  首筋に喉仏、鎖骨、胸、背中の感触を手や口でお互いに楽しむ。  ピクッと跳ねる体や、甘さを含む吐息にますます気持ちが高まっていく。  肌の感触を楽しんでいた手が降りてゆき、硬く腹につくほどまでに育った相手の陰茎に届いた。  先走りでぬるついているソレに触れると、堪えていた声が漏れた。  自分のものとは違う形、長さ、太さに好奇心がくすぐられ、ためらいがちだった手も大胆に動いていた。  水音が増していき、その音にまた興奮し、耐えきれないほどの快感が全身を支配する。 「賢、さ……、やば、い、きもちいい……ッ」 「ぅあ、優、そこやめッ、ヤバッ!」  奥歯を噛み締め堪えたが、一気に駆け上がってきた快感に耐えきれず、2人は射精に至った。  手と腹には互いが吐き出した白濁したものが飛んでいる。  特有の青臭さに眉をひそめたが、嫌悪感はなかった。 ***  無事に触れ合えた興奮から、その後3回もお互いに抜きあった。  どろどろになってしまった体とシーツをそのままには出来ず、再び風呂へ向かった。シーツは大まかにこすり、明朝洗おうと湯船に浸している。  佐野は力の入らない体を叱咤しながら、ふらふらと階段を昇り、寝室へと戻った。先に風呂を終えた武林が換気をし、ベッドを整えていてくれたので、気兼ねなしにコロンと転がった。 「優、麦茶」 「ありがとう」  差し出してくれた佐野のマグカップを受け取り、ゆっくりと喉を潤していく。  隣に座ってきた武林の手にある湯のみを見て、笑みがこぼれた。 「賢さん……どうしよう……」 「どうした? ……嫌だったか?」  武林の言葉に、佐野は緩やかにかぶりを振った。 「おれ、早く最後までしたいなぁ……あふぁ」 「そうか……そうか! ……よかった」  空になったマグカップをサイドテーブルに置き、武林の腰に腕を回し、肩に頭を預けた。ドクドクと早く鳴っている心音はどちらのものなんだろうか。  下半身もスッキリして、程よい疲労感に、武林の少し高い体温。  佐野は今にも寝入ってしまいそうだった。  コトンと音が聞こえた方へ視線をやると、並んでいる2人のカップが目に入ってきた。  不揃いだけれど、隣り合うことが当たり前のようにたたずんでいる。  自分たちも、あのカップのようにずっと並んで生きたいと薄れゆく意識の中、佐野は強く願った。

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