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第5話 新しい生活
翌週末の引っ越しも無事に終わり、新居での生活が始まった。
仕事帰りにうっかり以前のボロアパートへ向かってしまったりしたが、かねて順調だ。
また、昔から布団派だった佐野は、憧れのベッドを購入していた。しかもダブルサイズだ。大きなベッドで悠々と寝たいという長年の夢が叶ったのだ。
武林とは以前と変わらない付き合いが続いている。
引っ越し祝いに来てくれた共通の友人・小野宮 へ、付き合うと報告をした。
「――は? 付き合うことにした? やっとかよ! 遅いわ! おめでとう!」
と、キレ気味に祝福の言葉をいただいた。
武林と佐野の行動は以前から恋人同士さながらだったらしく、不自然だったと言われてしまった。
それから少し変化が訪れた。
しばらく後の金曜日、佐野宅へやって来た武林の様子がいつもと違っていた。機嫌が悪いのか、具合が悪いのか、来てからずっと顔をしかめていた。
佐野は迷ったが、とりあえずいつも通りに夕飯を用意した。食欲はあるようで、武林はあっという間に平らげた。
その様子に佐野は安心し、今夜は泊まるのかと尋ねた時だった。
「優、大事な話がある」
「うん? はい、なぁに?」
怒っているのか、テーブルを睨みつけている武林に佐野は汚れでも付いていたか? とテーブルを拭きながら、話を待った。
「――おまえにムラムラするんだ」
「は? ――えーと、もう一回言ってもらえる?」
幻聴が聞こえたと、佐野は思った。
視線を上げ、テーブルから佐野の目を見つめる武林の目元が赤く染まっていた。
「おまえにムラムラするから、セックスしよう!」
「情緒もクソもなんもないね!」
「すまん! だけど、小野宮に付き合うって報告してから、リミッターが外れたみたいに優に意識がいくんだ! 三十路前の男にかわいいとかカッコイイとか思うんだよ! その……ッ、こ、恋人と一緒にいたら、当然、次の欲求が湧いてくるだろうが!」
武林の叫びを頭の中で反芻し、ようやく何を言われたのか理解した。
じわじわと体が熱くなっていくのを佐野は感じた。
「そ、そうなんだ……う、うん。どうしよう、それは、嬉しい、かな」
「いや、俺も悪かった。……ま、そんなわけで、おまえともっと触れ合いたいんだよ」
武林の告白にむずむずとくすぐったさを感じた。
「男女のセックスを知ってるから、最終的には挿れたいって思うんだ。……でもさ、男同士のやり方調べると色々と準備もいるだろう?」
佐野も男だ。好きな人は男相手でも抱きたいと思う。黙ってコクリとうなずく佐野を確認し、武林は言葉を続けた。
「生理的に無理とかもあるらしいし、デリケートなところを使うから怖いだろうし…。だから模索しながら、ゆっくりと進んでいきたい。少しずつ開拓していって、最後には深いところまで繋がりたいんだ」
「うん、わかったよ……」
「なら、キスからな」
佐野の了承を受け取った武林は身を乗り出し、佐野の唇にそっと触れた。
軽いものから深いものまでしたことはあったが、素面でのキスは初めてだった。お互いにその事実に気づき、顔をりんごのように染めていた。
「お風呂沸いてるから、賢さん先にどうぞ。おれ、片付けするから」
「おう……ありがとう」
そそくさと席を立ち上がり、佐野は空いた食器を運び始めた。武林もぎこちない動きで浴室へと向かった。
武林の姿が見えなくなると、大きく息をはいた。バクバクと暴れる心臓を落ち着かせるように――。
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