26 / 45

第26話 雨上がりの空から、虹色のしずく⑥

「優……?」  小さく呼ぶと、ひんやりと冷えた体を温めるみたいに、優に抱き込まれた。 「葉司」  ベッドで二人、肌と肌をぴったりと隣り合って並べて、そこから伝わってくるぬくもり。  啄むようなキスを繰り返す、優の瞳は熱っぽくて、それを見ているだけで、何だか頭はくらくらしてくる。  優の掌が、首筋から、肩、腰へと這っていって、じんわりと温かくなっていった。 「舌出して?」  囁かれて、唇をひらくと、舌が舌をぬるりと舐めとっていって、それから、やんわりと吸い上げられた。  頭の奥が、じいんと痺れるみたいになって、だんだんと何も考えられなくなっていく。  唇は、優の味でいっぱいになって、溢れ出していく。  優は、俺の脚の間に割り入って、太腿から内股へとゆっくりと撫でさすった。  優しく撫でられていった部分から、温かな感覚が広がって、ぼんやりと意識は漂う。 「なんか……あったかい……」 「それ、感じはじめかも……」 「え……っ」  驚きはキスで塞がれて、まどろむようにフワフワとしてくる。  ふっと、カチャカチャという音と、腰の下のほうに違和感を感じて、もぞりと動いた。 「ちょっとじっとして」  内股にぬるりとした濡れた感触で、優の指がすべっていって、その奥で止まった。  指は内股の奥でくるくると動いて、ゆるりと後孔から侵入しようとした。 「え、え……?」 「力抜いて――前立腺までしか入れないから。ローションしたし、力まなければ痛くないはずだから」 「う……」  優は真剣な瞳をしていて、少しずつ指が入ってくる圧迫感と違和感に押されながら、俺は息が止まった。 「息して……葉司。もしかして、うまくいったら――」 「あ……」 「うまくいかなかったら、ごめんな?」  俺を安心させるようにやわらかい微笑みをした優を見て、何だか胸が詰まった。 「それは、優のせいじゃ……んっ」  中から何度か指で押されるような感覚があって、どうしてもビクッと体が強張ってしまう。 「深呼吸して、ゆっくり――」  肩で息を繰り返していると、優の指がやんわりと俺の中心部をつかんで、上下し始めた。  下腹からじんわり痺れるような感覚があって、背中がぞわりとした。 「な、なんか……」 「ここらへん……かな?」 「んっ!」  優が後孔の浅いところでやわやわと指を動かして、もう片手で先端を上下されると、腰がビリッと痺れた。  気が付くと、優は脚の間にすべり込んでいて、あられもない格好で優にすべて晒していたことに、泣きそうになった。 「う……」 「痛い?」 「大丈夫……恥ずかしい、だけ……あっ」  中を指で擦られながら、ぎゅうっと中心部を強く握り込まれて、背中が跳ね上がった。 「あーもうっ。そういうこと言ったら我慢できなくなっちゃうじゃん!あっ、葉司――勃ってきたよ……?」  なんだか水の中にいるようで、その言葉は聴こえたけど、返事ができなかった。  ズクリと腰が痺れて、熱い。  駆け上がっていくような、それでいて、落とされていくような、感覚が追い詰められて、息が上がる。 「気持ちいい?」  俺はかろうじて、何度か頷いた。 「やばい!すんげぇ嬉しい――俺、どうにかなりそう」  優は茶色い瞳にあやしい光を浮かべて、薄赤い舌を出してぺろりと唇を舐めた。  上気した頬の優に、昂りと内奥とを一気に責められて、下腹部にブワッと広がるような快感が突き抜けた。 「あ、あ……ッ」  咽喉がのけぞって、爪先に力が入る。 「ここも、いい?俺の指も気持ちいい。葉司の中、すげぇ熱い」 「あっ、や……」  やめて、という言葉はもう言えなくて、恥ずかしさと、不安定な快感に、ぐらぐらとしてきた。 「これ、気持ちいいよね?」  昂りの先端を囲むようにぐるりと撫でられ、同時に中から指で押されて、電流が走ったみたいにズキンと痺れた。 「ひ……っ」  もう何も考えられなくなって、もっとして欲しいような甘い疼痛に襲われた。  優の指が蠢いて、上下して、ふわりと高みへと昇った。 「あ、あ、あぁ……ッ!」  駄目だ、と思った時には遅くて、腰が震えて、ギュッと脚に力が入って、激しく吐精していた。  白い精液を腹に飛び散らせて、はぁはぁと肩で息をするしかなくて、目の前が霞んでいく。 「葉司――可愛い……イッたね。やばいくらい嬉しい」 「ゆ、優……」  優はふわりと笑って、内股にキスを繰り返した。 「あ……の、ゆ、指――もう……抜いて……」  小さくそれだけようやく言って、酸素が足りなくて、胸を上下させた。 「もう一回しよ?俺と一緒にイこ」 「え……ッ?む、無理……」  一気に続く出来事に、俺はキャパオーバーになって泣き出しそうになった。 「だって、葉司見てたら勃っちゃったから、葉司が責任取ってくれるよね?」 「お、俺……」  優の体を見ると、完全に反応していて、その昂りは俺のためだと言われて、今まで知らない甘い疼きの中へと引きずり込まれていった。  体は一度知ってしまった快感を一つ一つ拾ってしまって、優が後孔に突き入れた指を押し込むように揺らして、昂りを掌で包んで上下させるたびに、腰が震えた。 「ほら、葉司、もう勃ったよ――」  優の声は掠れていて、清らかなのに、どこか淫らで、今まで知らなかった優の仕種に、心は押し流されていく。  ずるりと指が後孔から引き抜かれて、優がすべるように覆いかぶさってきて、食べてしまうような激しいくちづけをされた。 「ん……ッ」  舌を吸われながら、優の掌が、お互いの昂りが密着するようにくっつけた。  粘液が溢れた先端がぬるりと重なって、優は二つともをまとめて掌で上下させていく。 「ゆ……う……ッ」  優が腰をグラインドさせるたびに、自分の体が揺れて、そのたびに自分と優の昂りが擦れ合って、腰から頭までがジンジンと痺れていく。 「葉司、いい……ッ」  キスの合間に優の唇から熱い吐息がもれて、優が感じていることに、さらに快感が深まってしまう。 「優、優――好き……」  指を伸ばして優の昂りの先端をいじるように擦ると、優はビクッと腰を震わせた。 「葉司――そんな……ッ」  優はギュッと力むと、俺が指で強めに上下させるままに、息を震わせた。 「葉司……っ!」  俺の名前を呼ぶのへ、首筋をつかんで引き寄せてキスして、どくりどくりと射精するのを掌で受け止めた。  優の熱さを感じると、自分自身も激しく感じてしまって、優の指が素早く昂りを擦っていくのに耐えられなくなった。 「あ……あぁッ!」  駆け上がるように追い詰められて、優のすぐ後にイッてしまった。 「葉司、大好きだよ……」  お互いに速い呼吸のままで、キスを繰り返して、心は愛しさで不思議なまでに満ちていく。  ちゅ、と唇を離して、優は俺の腹をさらりと撫でた。 「やばい、これ……」  優が濡れた瞳でそう言ったのへ、ふと俺は自分の腹を見ると、白い精液で汚れていた。 「ご、ごめん……」  恥ずかしさで身をよじろうとすると、優の指先が、その精液を押し広げるように俺の腹を這った。 「エロ過ぎるだろ、これは……」 「え……?」  何を言われたのかわからずに優を見上げると、指先はそのまま精液をすくい取るように這っていって、乳首に触れて、思わずビクッと引いた。 「ここ、何か感じる?」 「く、くすぐったい……かな……」 「ふーん、今度じっくり触ったら感じるかな?」 「え……?」 「あと、いつか、さ。いつか、葉司が許してくれるなら。葉司が良いって思ったら。ここに、俺のを受け入れてくれる?」  するりと長い指が後ろへと回って、俺の後孔に触れた。  今日はずっと慣れないことへの連続と、初めて人と肌を触れ合わせたことで、頭はいっぱいいっぱいになっていて、ふっと意識が遠のいていくのを感じた。 「あっ、葉司。思考停止した――ちょっと待って」  ふわりと抱きしめられて、愛しい温かさに心ごと包まれた。 「葉司、愛してる――」  俺が一生聴かないだろうと思っていた言葉。  そして、俺が一生言わないだろうと思っていた言葉。 「俺も……優、愛してる」  優の心も、体も、抱きしめられることの幸せを感じて、その肩に頬をうずめた。  白い洋館みたいな優の家を出ると、雨上がりの空に、うっすらとした雲の白と、水色がどこまでも広がっていた。 「大丈夫。一人で帰れるよ」 「俺が寂しい。送ってく」  優がにこりと笑うと、晴れ間の空によく似合っていて、ふっと見惚れた。  優が隣にいて、一緒に歩く道。  明日が楽しみになって、その先へも顔を上げて行けそうな。  雨上がりの空が、並んで見ると、こんなに美しいことに初めて気が付いた。  不思議と、哀しくはないのに涙がこぼれていった。 「葉司」 「優が……大切で……」  ぽつりと小さく呟くと、優は一度、ぎゅっと俺の肩を引き寄せた。 「葉司の涙は――虹みたい。いろんな色をしてる」 優の指が、俺の頬に触れて、それから涙をぬぐっていった。  俺が見上げると、すぐにまっすぐな瞳が見返してくる。  世界中に、こんな愛しい瞬間があって。  世界は、あなたがここにいれば、とても綺麗。  これから、何度でもその名前を呼んで良いんだろうか?  空を見上げるたびに、今日の空を、きっと思い出す。  さあっと吹き過ぎていく風、何処までも続いていく空の水色、緑の葉に残った雨滴のきらめきを。  いま二人が歩く道のその先へと、まだ歩いていける気がするから。  たぶんそれを言葉にするなら、きっと――希望。

ともだちにシェアしよう!