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第26話 雨上がりの空から、虹色のしずく⑥
「優……?」
小さく呼ぶと、ひんやりと冷えた体を温めるみたいに、優に抱き込まれた。
「葉司」
ベッドで二人、肌と肌をぴったりと隣り合って並べて、そこから伝わってくるぬくもり。
啄むようなキスを繰り返す、優の瞳は熱っぽくて、それを見ているだけで、何だか頭はくらくらしてくる。
優の掌が、首筋から、肩、腰へと這っていって、じんわりと温かくなっていった。
「舌出して?」
囁かれて、唇をひらくと、舌が舌をぬるりと舐めとっていって、それから、やんわりと吸い上げられた。
頭の奥が、じいんと痺れるみたいになって、だんだんと何も考えられなくなっていく。
唇は、優の味でいっぱいになって、溢れ出していく。
優は、俺の脚の間に割り入って、太腿から内股へとゆっくりと撫でさすった。
優しく撫でられていった部分から、温かな感覚が広がって、ぼんやりと意識は漂う。
「なんか……あったかい……」
「それ、感じはじめかも……」
「え……っ」
驚きはキスで塞がれて、まどろむようにフワフワとしてくる。
ふっと、カチャカチャという音と、腰の下のほうに違和感を感じて、もぞりと動いた。
「ちょっとじっとして」
内股にぬるりとした濡れた感触で、優の指がすべっていって、その奥で止まった。
指は内股の奥でくるくると動いて、ゆるりと後孔から侵入しようとした。
「え、え……?」
「力抜いて――前立腺までしか入れないから。ローションしたし、力まなければ痛くないはずだから」
「う……」
優は真剣な瞳をしていて、少しずつ指が入ってくる圧迫感と違和感に押されながら、俺は息が止まった。
「息して……葉司。もしかして、うまくいったら――」
「あ……」
「うまくいかなかったら、ごめんな?」
俺を安心させるようにやわらかい微笑みをした優を見て、何だか胸が詰まった。
「それは、優のせいじゃ……んっ」
中から何度か指で押されるような感覚があって、どうしてもビクッと体が強張ってしまう。
「深呼吸して、ゆっくり――」
肩で息を繰り返していると、優の指がやんわりと俺の中心部をつかんで、上下し始めた。
下腹からじんわり痺れるような感覚があって、背中がぞわりとした。
「な、なんか……」
「ここらへん……かな?」
「んっ!」
優が後孔の浅いところでやわやわと指を動かして、もう片手で先端を上下されると、腰がビリッと痺れた。
気が付くと、優は脚の間にすべり込んでいて、あられもない格好で優にすべて晒していたことに、泣きそうになった。
「う……」
「痛い?」
「大丈夫……恥ずかしい、だけ……あっ」
中を指で擦られながら、ぎゅうっと中心部を強く握り込まれて、背中が跳ね上がった。
「あーもうっ。そういうこと言ったら我慢できなくなっちゃうじゃん!あっ、葉司――勃ってきたよ……?」
なんだか水の中にいるようで、その言葉は聴こえたけど、返事ができなかった。
ズクリと腰が痺れて、熱い。
駆け上がっていくような、それでいて、落とされていくような、感覚が追い詰められて、息が上がる。
「気持ちいい?」
俺はかろうじて、何度か頷いた。
「やばい!すんげぇ嬉しい――俺、どうにかなりそう」
優は茶色い瞳にあやしい光を浮かべて、薄赤い舌を出してぺろりと唇を舐めた。
上気した頬の優に、昂りと内奥とを一気に責められて、下腹部にブワッと広がるような快感が突き抜けた。
「あ、あ……ッ」
咽喉がのけぞって、爪先に力が入る。
「ここも、いい?俺の指も気持ちいい。葉司の中、すげぇ熱い」
「あっ、や……」
やめて、という言葉はもう言えなくて、恥ずかしさと、不安定な快感に、ぐらぐらとしてきた。
「これ、気持ちいいよね?」
昂りの先端を囲むようにぐるりと撫でられ、同時に中から指で押されて、電流が走ったみたいにズキンと痺れた。
「ひ……っ」
もう何も考えられなくなって、もっとして欲しいような甘い疼痛に襲われた。
優の指が蠢いて、上下して、ふわりと高みへと昇った。
「あ、あ、あぁ……ッ!」
駄目だ、と思った時には遅くて、腰が震えて、ギュッと脚に力が入って、激しく吐精していた。
白い精液を腹に飛び散らせて、はぁはぁと肩で息をするしかなくて、目の前が霞んでいく。
「葉司――可愛い……イッたね。やばいくらい嬉しい」
「ゆ、優……」
優はふわりと笑って、内股にキスを繰り返した。
「あ……の、ゆ、指――もう……抜いて……」
小さくそれだけようやく言って、酸素が足りなくて、胸を上下させた。
「もう一回しよ?俺と一緒にイこ」
「え……ッ?む、無理……」
一気に続く出来事に、俺はキャパオーバーになって泣き出しそうになった。
「だって、葉司見てたら勃っちゃったから、葉司が責任取ってくれるよね?」
「お、俺……」
優の体を見ると、完全に反応していて、その昂りは俺のためだと言われて、今まで知らない甘い疼きの中へと引きずり込まれていった。
体は一度知ってしまった快感を一つ一つ拾ってしまって、優が後孔に突き入れた指を押し込むように揺らして、昂りを掌で包んで上下させるたびに、腰が震えた。
「ほら、葉司、もう勃ったよ――」
優の声は掠れていて、清らかなのに、どこか淫らで、今まで知らなかった優の仕種に、心は押し流されていく。
ずるりと指が後孔から引き抜かれて、優がすべるように覆いかぶさってきて、食べてしまうような激しいくちづけをされた。
「ん……ッ」
舌を吸われながら、優の掌が、お互いの昂りが密着するようにくっつけた。
粘液が溢れた先端がぬるりと重なって、優は二つともをまとめて掌で上下させていく。
「ゆ……う……ッ」
優が腰をグラインドさせるたびに、自分の体が揺れて、そのたびに自分と優の昂りが擦れ合って、腰から頭までがジンジンと痺れていく。
「葉司、いい……ッ」
キスの合間に優の唇から熱い吐息がもれて、優が感じていることに、さらに快感が深まってしまう。
「優、優――好き……」
指を伸ばして優の昂りの先端をいじるように擦ると、優はビクッと腰を震わせた。
「葉司――そんな……ッ」
優はギュッと力むと、俺が指で強めに上下させるままに、息を震わせた。
「葉司……っ!」
俺の名前を呼ぶのへ、首筋をつかんで引き寄せてキスして、どくりどくりと射精するのを掌で受け止めた。
優の熱さを感じると、自分自身も激しく感じてしまって、優の指が素早く昂りを擦っていくのに耐えられなくなった。
「あ……あぁッ!」
駆け上がるように追い詰められて、優のすぐ後にイッてしまった。
「葉司、大好きだよ……」
お互いに速い呼吸のままで、キスを繰り返して、心は愛しさで不思議なまでに満ちていく。
ちゅ、と唇を離して、優は俺の腹をさらりと撫でた。
「やばい、これ……」
優が濡れた瞳でそう言ったのへ、ふと俺は自分の腹を見ると、白い精液で汚れていた。
「ご、ごめん……」
恥ずかしさで身をよじろうとすると、優の指先が、その精液を押し広げるように俺の腹を這った。
「エロ過ぎるだろ、これは……」
「え……?」
何を言われたのかわからずに優を見上げると、指先はそのまま精液をすくい取るように這っていって、乳首に触れて、思わずビクッと引いた。
「ここ、何か感じる?」
「く、くすぐったい……かな……」
「ふーん、今度じっくり触ったら感じるかな?」
「え……?」
「あと、いつか、さ。いつか、葉司が許してくれるなら。葉司が良いって思ったら。ここに、俺のを受け入れてくれる?」
するりと長い指が後ろへと回って、俺の後孔に触れた。
今日はずっと慣れないことへの連続と、初めて人と肌を触れ合わせたことで、頭はいっぱいいっぱいになっていて、ふっと意識が遠のいていくのを感じた。
「あっ、葉司。思考停止した――ちょっと待って」
ふわりと抱きしめられて、愛しい温かさに心ごと包まれた。
「葉司、愛してる――」
俺が一生聴かないだろうと思っていた言葉。
そして、俺が一生言わないだろうと思っていた言葉。
「俺も……優、愛してる」
優の心も、体も、抱きしめられることの幸せを感じて、その肩に頬をうずめた。
白い洋館みたいな優の家を出ると、雨上がりの空に、うっすらとした雲の白と、水色がどこまでも広がっていた。
「大丈夫。一人で帰れるよ」
「俺が寂しい。送ってく」
優がにこりと笑うと、晴れ間の空によく似合っていて、ふっと見惚れた。
優が隣にいて、一緒に歩く道。
明日が楽しみになって、その先へも顔を上げて行けそうな。
雨上がりの空が、並んで見ると、こんなに美しいことに初めて気が付いた。
不思議と、哀しくはないのに涙がこぼれていった。
「葉司」
「優が……大切で……」
ぽつりと小さく呟くと、優は一度、ぎゅっと俺の肩を引き寄せた。
「葉司の涙は――虹みたい。いろんな色をしてる」
優の指が、俺の頬に触れて、それから涙をぬぐっていった。
俺が見上げると、すぐにまっすぐな瞳が見返してくる。
世界中に、こんな愛しい瞬間があって。
世界は、あなたがここにいれば、とても綺麗。
これから、何度でもその名前を呼んで良いんだろうか?
空を見上げるたびに、今日の空を、きっと思い出す。
さあっと吹き過ぎていく風、何処までも続いていく空の水色、緑の葉に残った雨滴のきらめきを。
いま二人が歩く道のその先へと、まだ歩いていける気がするから。
たぶんそれを言葉にするなら、きっと――希望。
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