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第40話 それぞれの光、青空へとアンコール②

「あ、俺、今日泊まるから」 「え?」  優が突然に言い出したことに、驚いて顔を上げた。  優の突然さは、今に始まったことじゃないけれど、いちいちビックリしてしまう。 「そこは、え、じゃなくて、やったぁ、じゃない? 今日バレンタインだし、明日休みだし。もう言ってきてあるから」 「えっ、いや、だって」  バレンタインだというのも覚えていなかったくらいで、優が泊まる話もまったく出ていなかった。  そんな俺の様子を気にもかけずに、優は、深い青色の箱を俺に手渡した。 「とにかく、これ開けてみて」 「あ、うん」  優からの赤いリボンのかかったバレンタインの箱を手に取って、俺は丁寧に包装紙をはがしていった。  深い青色の細長い箱をそっと開けると、そこには一つずつ色が違う、キラキラした丸いチョコレートが一列に並んでいた。  白と青と紺がマーブルになったもの、オレンジ色の上にゴールドのラメがかかったもの、真ん中にぐるりと茶色いラインが入ったベージュのもの、様々な色で、八個並んでいた。 「わあ、綺麗だ……」 「惑星ショコラだって。地球、水星、土星、金星、海王星とか」 「すごい。ありがとう」  俺は箱をかざして、いつまでも、その球体のキラキラしたチョコレートを眺めていた。 「大事にする。優にもらえるなんて」  俺は幸福感に満ちて、ふっと微笑んだ。  優が選んでくれたこと、今日渡してくれたこと、すべてが心を温かくして、ずっとこのチョコレートを置いておきたかった。 「やばい。可愛い。でもこれは大事にしないで、食べて。はい」  優は、長い指で一つ選んで摘まむと、俺の前に差し出した。  それは青と白のマーブルの丸い地球。 「あ、でも、勿体ないから。しばらく置いとく」  俺は優の手をとって、チョコレートをまた箱になおそうとした。 「それはダメ。俺の前で食べて。はい、あーん」 「え……」  優の仕種に、自分の頬が赤らんでくるのがわかって、思わず止まってしまった。 「葉司が食べるの楽しみだから!」 「でも、優から初めてバレンタインもらったし、記念にしばらく大事にしたいから」 「うん、って言いたいけど、ダメ。葉司が美味しいって顔で、もぐもぐするの、見たいから」  優はずいっと寄ってきて、真面目な顔をしてそう言うから、俺は返す言葉を失くしてしまった。 「はい、あーん」  優が、にこーっと笑って首を傾げれば、俺にはそれ以上、抵抗する理由なんかなくて。  大人しく口を開くと、優の指が、地球のチョコレートを、俺の唇へと押し込んできた。  舌の上へと乗るまで指は押し入れてきて、最後にするりと唇をかすかになぞっていった。  何となく気恥ずかしさで、優から視線を落として、口中ですぐになめらかに溶けていくチョコレートの触感に集中した。  上品な甘さと、カカオのほのかなビターさが、口いっぱいに広がっていく。  歯で噛むと、トリュフの中のガナッシュが出てきて、甘さはさらに柔らかくなった。 「美味しい?」 「ん……すごく。こんなの初めて食べた。ありがとう」 「葉司が食べてるところ、好き」  持ち上げられた指先が、そっと俺の唇をたどっていて、その触れるか触れないかの感覚に、思わず目を伏せた。 「だって、この唇が、好きだから」  指先は唇を摘まんで、それから、するりと口の中へと割って入ってきた。 「ゆ……」  俺は驚いたけど、優の指を噛んでしまわないように、唇を開いているしかなかった。  指は舌をなぞっていって、俺は戸惑いで、瞳をぎゅっと閉じた。  かすかでもどかしいような感覚がして、優の名前を呼びたいけれど、舌を挟んだり、なぞったりしている指のために出来なかった。  舌からじんわり温められているようで、息が上がってしまう。 「今の葉司、どんな味?」  優の顔がゆっくりと近付いてきて、葉司は俺の口から指を引き抜くと、入れ替わりに唇を重ねてきた。  俺を食べてしまうみたいにキスをして、すぐに歯を割って、今度は舌がぬるりと入ってきた。  直接に感じる優の吐息と、柔らかな舌の熱さに、呼吸が途切れ途切れになっていく。 「ん……っ」 「葉司の舌、甘い……」  もうどちらのものか、わからない吐息が混ざり合って、舌と舌を深くからめて。  キスさえ久しぶりだと感じてしまうのは、肌の温もりに触れる心地良さを知ってしまっているから。  優の頬を両手で挟んで、引き寄せて、何度も角度を変えてくちづけて。  俺の口に残っていたチョコレートは、いつしか混ざっていって、優の舌までもが甘い。  優は、俺の耳たぶにくすぐるように触れて、それから首筋へと指をすべらせていった。  久々に触れられて、くすぐったくて、少し首をすくめてしまう。  優の掌はトレーナーの上から、俺の脇腹から胸を撫でていって、思わず優の腕をつかんだ。 「優、これ以上……」  もう息は上がってしまっていて、それを知られないように、うつむいて言った。 「これ以上、何?」 「ダメだって……あっ」  優は、するりとトレーナーの下に手をすべりこませて、俺の胸を撫でた。 「ダメ?」  そう言う間も、俺の乳首を探すように、指先は蠢いていて、急にツンとつつかれて、ビクッと腰が引いた。 「優……っ」 「葉司――したい」  優の瞳は、もうあやしく光っていて、俺は息を飲んだ。  指の腹でやわやわと乳首を擦られながら、激しくキスされれば、何も抵抗できなくなってしまう。 「優……んんッ」  優の手が伸びて、反応しきった中心部をズボン越しにつかまれて、隠すこともできずに、優の肩に顔をうずめた。  速まる呼吸で、もう熱さを昇っていく体は、自分でも押し留めることができくなっていた。 「いい――?」  優の声は低く掠れていて、ひどくセクシーで、その声も唇も、すべて自分だけのものにしてしまいたい衝動が突き抜けた。 「――うん」  俺は、その愛しい唇に、唇を押しつけた。  唇を探り合って、指を探り合って、それは無限みたいなのに、ほんの少しの時間。  俺たちは、二人きりの誰もいない深海で、ゆらめくみたいに肌を探り合って、息を交わしている。  二階の部屋の、薄暗がりの中で、白いシーツの上で素肌をすべて晒して、二人して感覚だけの世界で体を重ねて。 「ゆ……う……」  さらに深い恋に落ちてしまうみたいに、もう優だけしか見えない。 「葉司――こっち……」  優に促されるまま、うつぶせになると、優に腰をぐいと引き寄せられた。  腰を上げる姿になってしまって、優の目の前に、一番弱い部分を晒していた。 「あ……」  俺は恥ずかしさで逃げようとしたけど、強い力でさらに引き寄せられれば、火照った体で逃れるのはもう難しかった。  その時、後孔にぬるりとした温かな感触を感じた。 「え……あ……ッ!」  首をねじって見ると、優が俺の後ろに顔をうずめて、唇と舌で後孔を愛撫していた。 「い、いや……」 「逃げないで、葉司」  優はそう言ったかと思うと、ローションで濡らした指を、浅く突き入れて、もうすっかり場所のわかっている前立腺をぐっと押してきた。 「ひ……っ」  そのまま指の腹でグッグッと押され、揺らされるように擦られて、そのたびにブワッと快感が下腹に走っていった。  指で転がすように愛撫されたり、押し込むようにされたりが繰り返されて、電流のような痺れが体中に駆け抜けていく。 「う――んんッ」  抑えようとしても、声がどうしても漏れて出て、俺は掌で口を覆った。 「ダメだよ――葉司。声が聴きたいのに……」 「や、やだ……」 「これでも、ダメ――?」  ずくりともう一本指が侵入してきて、圧迫感があるのに、痺れがどんどん甘い快感にすり変わっていくのを止められない。 「う、う……っ」  指で擦りあげられるたび、どんどん前の前が白く霞んでいって、もう喘ぎを抑えることができなくなっていた。 「あ、あ、あ……っ」 「葉司が、涙目になって喘いでるの、好きだよ――本当は強いのに、俺の下で何もできなくなって、気持ちよくなってるの、すげぇ好き――」  もう体がおかしいんじゃないかと思うくらい、その低い囁きさえ快感になって、蕩けていく。 「もう一本入れるからね――」  前に手を回されて、ズリッと昂りを扱き上げられながら、後ろに慎重に三本目が入って来る。 「あ――優ッ、あ……ひッ」  もう先から粘液が滴っている昂りを、緩急をつけながら扱かれ、ぎっちりと後孔に入れた指で快感を引き出されて、快感が限界になって、溢れてしまいそうだった。 「も、もう、無理……ッ、あぁッ!」 「イキそう?気持ちいい?イッていいよ――」 「あ、ダメッ、俺だけ――ひッ、ああぁっ」  快楽の波が大きくやってきて、飲み込まれていった。 「あッ、出、出ちゃ……うッ」 「いいよ、出して――可愛い……」  前も後ろも、追い詰めるように愛撫されて、腰がガクガクと震え、高みへと駆け上がっていった。 「ひ、あぁっ、ああぁ……ッ!」  俺はビクビクッと痙攣すると、その瞬間に、激しく吐精していた。  頭は真っ白になって、何も考えられず、ただ小刻みに身を震わすだけになっていた。  はっきりと意識を保つのが難しくて、ふわふわとした多幸感で体はいっぱいになる。 「葉司……」  優は、俺の体を仰向けにさせると、俺の脚の間に割り入って、その上に覆いかぶさってきた。  優は、クッションを俺の腰の下に当てがって、脚を開かせ、腰を高く上げさせた。

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