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第41話 それぞれの光、青空へとアンコール③
大きく脚を開かされる姿勢には、未だに慣れなくて、いつも羞恥でどうして良いかわからなくなる。
ただ優を受け入れるためだけに、脚を広げている。
脚の間には、もう優が割り込んでいた。
苦しいみたいに寄せられた眉や、いつもとは違う濡れた瞳、呼吸を繰り返す半開きの唇がセクシーで、体がズキッと震える。
優は、ゆっくりと後孔に熱い昂りを押し当ててきた。
「う……っ」
思わずぎゅっとシーツを握って、広げられて押し込まれる圧迫感に、息を飲んだ。
少しずつ入ってくるたびに、息が止まりそうになって、どうしても力んでしまう。
「うっ」
ぐっと侵入された衝撃に、思わず腰が逃げて、ずり上がった。
それを両手で腰をつかまれて、入ったままで抑えられて、体がビクッと震えた。
「葉司――息吐いて……」
はっはっと肩で息をして、呼吸を繰り返す。
「手は、こっち……」
シーツを握って強張ってしまった手を、優の指がゆっくりとはがして、その肩へとつかませた。
優の指は、そのまま俺の昂りへと這っていって、先端を弄るように愛撫し出した。
「あ……ッ」
思わず優の肩をつかんで、仰け反った。
優は、俺の昂りを愛撫する手を止めないまま、その瞬間にぐいっと入ってきた。
「あぁッ!」
声を抑えられずに、優の肩にすがった。
「葉司……ッ」
優は耐えるみたいに唇を噛んで、上気した頬で、俺の名前を呼んだ。
「入った……よ……」
はぁはぁと早い呼吸の音は、もうどちらのものかも区別つかないまま、肌と肌が当たった感触に、体が震えた。
「優、優……っ」
奥まで、優でみっちりと埋まってしまった圧迫と、体がバラバラになりそうな不安さに、目の前が霞んでいく。
体を繋ぐことは、簡単なことじゃないのに、俺はそれを選んでいて。
この身体さえ取っ払って、優という存在のすべてを受け入れてしまいたい。
「ゆ、う……好き――」
ただ、好きだから。
「葉司――大好き……」
身も心もすべて、優というかたちに埋まって。
肌を破って一つに溶け合って、熱さで繋がってしまいたい。
「う……んんッ!」
優が少しずつ動き出して、体の奥が熱さで擦れ合って、肩で喘いだ。
「あ、あ、あ……ッ!」
優は、俺の感じる部分を狙うように、浅く出し入れを繰り返した。
「あ、や……っ」
下腹に、苦しさと刺すような甘い疼痛が同時に広がって、だんだんと感覚が自分で制御できなくなってくる。
「葉司、葉司……ッ」
優は熱い囁きでうわ言みたいに繰り返して、俺の背中に腕を回したかと思うと、ぐいっと俺の上半身を引き起こした。
「え……あぁッ!」
俺はそのまま身を起こされて、座っている優の上にまたがる姿勢になっていた。
繋がったままに、優と対面になって、初めての姿勢に、どうして良いかわからずに、目の前の優の肩にすがった。
そのはずみで、自分の腰が揺れて、電流のような快感が走った。
「う……あっ」
ビクッと腰が揺れて、その瞬間に、中に入っている優の昂りを、自分の奥のポイントに擦りつけていた。
「ああぁッ」
もう自分では声を抑えることができなくなっていて、ぎゅっと優にしがみついた。
「あ、葉司……っ」
優の吐息も熱くて、耳元で喘ぎのように繰り返されている。
優も感じているのだと思うと、腰から背筋へと、甘い疼きが一気に駆け抜けた。
その間にも、腰はグラインドして、貪欲に快感を得ようとしていて、もう止めることができなくなっていた。
「や、やだ……あ、うぅ……ッ」
「葉司、そんな、きつくしたら……っ」
優は頬を紅潮させて、先端から粘液を溢れさせている俺の昂りを、上下に激しく擦り出した。
「ひッ――」
さらに、優に下から揺らすように突き上げられて、溺れてしまうみたいに息がおぼつかなくなっていく。
頭の中が透明になっていって、快楽の波が何度も押し寄せて、痺れるような甘さでいっぱいなる。
「あっ、あっ、優……!」
漏れる喘ぎをふさがれるようにキスされて、ぬるりと舌を絡めることも、すべては甘い快感に変換される。
腰を揺すぶりながら、昂りを激しく擦られ続けて、もう体中がどこを触れられても気持ち良くて、押し上げられるように駆け上がっていく。
「優、だめ、だめ……!」
もう自分でも何を言っているかわからなくなって、腰からブワッと快楽が舞い上がって、弾けた。
「ひ……あ、ああぁッ!」
腰が震えて、優にしがみついたまま、刺激を続ける優の掌の中へ、激しくどくどくと射精していた。
「あッ、葉司……んっ!」
「うぁ……ッ」
俺が射精する間に、葉司は激しく腰を打ち付けるようにして、俺はがくりと仰け反った。
「葉司ッ」
優は硬直するみたいに止まると、俺の奥へと何度か痙攣して熱く射精した。
俺は目の前がぐるりと回って、優の熱さ体の奥で受け止めながら、力を失って優の肩にしがみついた。
腰から背中が時折、痙攣を繰り返して、はぁはぁと呼吸をするしかできない。
「葉司、大好き――」
「ん、ん」
唇が重なって、吸い上げてしまいたいみたいに、舌を吸われて、目眩に落ちていく。
優を受け止めた多幸感で、意識は甘さと、ふわふわとした悦びに漂っている。
世界は愛で染まって、心が破れそうなほど、ただ優が愛しくてたまらなくなる。
優は、俺の背中に腕を回すと、ゆっくりと俺の体を横たえた。
ずるり、と優が昂りを引き抜いていくと、ビクッと体が痙攣した。
「大丈夫――?」
優は優しさに満ちた瞳で、俺を覗き込みながら、手早くコンドームを外してくるりと縛った。
俺は返事をすることもできずに、開いた脚も閉じることもできず、ただ快楽の名残の体で、優を見上げるのが精一杯だった。
「葉司、すげぇ色っぽくて……綺麗」
余韻をなだめるように、そっとキスされて、頭の中はまだぼうっとしている。
体はひどく重たくて、動かしたくないのに、優を強く確かめたい不安に駆られて、手を伸ばした。
「ゆ、う……」
自分の声じゃないみたいに掠れていて、さっきまで我を忘れていたことが恥ずかしくなって、俺は隠すように手を引っ込めた。
絶頂を迎えて、優から離れてしまうと、不安定になって優の温もりを求めてしまう。
「すげぇ気持ち良かった……大好き」
優は、降ってきてさらってしまうかのように、俺を強くその胸に抱きしめた。
「あ……」
優に強く抱かれた安心感で、心は温められて満たされていった。
ぴったりとくっつくと、不思議なほど落ち着いて、ここが自分がいる場所なんだと感じる。
「愛……してる……」
伝えたいのは、その言葉しかなくて。
「俺も、愛してる」
まだ濡れた茶色い瞳は優しくて、そっと囁かれた声は静かだった。
心は溢れて、涙になって、一筋ただ頬を伝っていった。
俺はその後、ぐったりしてしまって、腕を上げるのも億劫になってしまっていた。
優が濡らしたタオルを持って来てくれて、体を丁寧に拭っていってくれた。
後ろも開いて清めようとしてくれたから、俺は慌てた。
「じ、自分でする……!」
「いいよ。しんどいだろ?別に初めてじゃないし。最初に挿れた頃とか、電池切れしてたから、ここも俺、拭いてたよ?」
「あ……」
カーッと頭が熱くなって、戸惑っている間に、優は手早く清めていってくれた。
「ご、ごめん……」
身の置きどころがなくなって謝ると、優はきょとんとして俺を振り返った。
「なんで?」
「結局、いつも電池切れみたいになって……」
「えー、可愛いよ。俺がそうさせたんだなぁって思うと。はっきり言って、やばい」
優は、面映ゆそうな笑みを浮かべて、照れたように瞳を瞬いた。
「全部入るようになったのも、ちょっと前だし。まだ大変だろ?」
どことなく甘い声で言われて、事後の気だるく甘い空気が部屋を満たしている。
「葉司が感じてて嬉しい」
優は、俺にぴったりと肌を寄せて、隣で横になった。
肌を通して伝わる優の感触や、体温が、何よりも愛しくて、俺は身を寄せた。
「葉司がもっと慣れて、もっと感じて欲しい」
「え……俺の体、どうなっちゃうんだろう……」
「それはもう、もっと慣れたら、もっと気持ちいーってなって、俺のこともっと大好きになっちゃうんだよ」
「これ以上好きになったら……どうなっちゃうんだよ」
「俺ともっとしたくなって――そしたら、もっとイイことしよ」
ふふ、と優は瞳にあやしい色を浮かべて微笑した。
「な、何……?」
「葉司って体やわらかいよね」
「?」
「これから色々できるね」
くっくっと鳩のように咽喉で笑う優は、いたずらっぽい表情をしていて、どこか危ないセクシーさもあって、俺は言葉を失った。
「な、なんか、やだ」
「大丈夫。葉司のいやがることしないから。俺と気持ちいーってなるだけ。いっぱいしようね」
優がくったくない表情で、にこーっと笑えば、俺は熱くなる頬でうなずくのが精一杯だった。
その夜は、遅くなった夕飯を二人で食べて、いつまでも世話をして来ようとする優に、甘い空気が漂っていて、なんだか気恥しかった。
終わった後の優は、いつも俺の体を気遣っていてひどく優しい。
視線が合えば、目じりを下げてにこりと笑って、寄り添うようにそばにいる。
もうすっかり夜更けになって、一緒に布団に入ると、優はゆっくりと手を繋いだ。
少し前には思いもよらなかった温もりが手の中にあって、一人ではない夜は何度目かになって、気がつけばモノクロだった生活は、優しい水彩画のように色づいている。
「葉司、明日デートしようよ」
優は、布団の中で俺に向き直り、静かに呟いた。
見つめると、茶色い瞳は、薄闇の中で瞬いて、無垢ないろを湛えている。
「うん」
俺は優の手を握りなおして、そのなめらかな頬にキスをした。
「また明日ね、優」
また明日、と約束できる幸せ。
明日などなかった心に、信じられる喜びを教えてくれた。
「また明日、葉司」
微笑み合って、どちらからともなく、おやすみのキスを交わした。
二人で眠って、朝までの夢の道を優しく照らす、ムーンライト・トリップ。
明日の目覚めを楽しみに、ゆっくりとまぶたを閉じた。
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