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第9話
◇
小さい頃から、五つ歳上の純くんが好きだった。
モデルとか、イケメン俳優みたいに格好良くて。華やかなオーラがあって。
それでいて、優しくて。
幼い僕の目線に合わせて、よく一緒に遊んでくれた。
「……どう?」
「……」
「気持ち、いい?」
小学4年生の頃、遊びに来た純くんに……初めてキスをされた。
僕の部屋で。二人きりの時に。
「……うん……」
「じゃあ、……またしようね」
そう言って長い人差し指を立て、少しだけ尖らせた唇の前に構える。
「でも……みんなには、内緒だよ」
真っ直ぐ見つめて僕を包み込む、純くんの優しい眼差し。
これが、特別な事なんだと思ったら……それだけで嬉しくて、堪らなかった。
だけど……
純くんを好きだった純粋な気持ちは、あの日を境に変わってしまった。
無色透明の綺麗な水に、墨汁を一滴落としてしまったような、後ろめたさ。
……もっと、触れたい。
純くんを思い出す度に、唇の感触が蘇り──心が震えて、身体の奥から熱いものが込み上げていく。
「……ん、ぁあっ、!」
純くんの感触や匂いを追い掛けながら……
僕は、人生で初めて自慰行為をしてしまった。
「……好きです」
中学に上がって初めての夏。
同じクラスの女子数人に呼び出され、そのうちの一人に告白をされた。
割と可愛くて、男子から人気のある子。
……だけど、全然ときめかなかった。
例え好きではなかったとしても、少しくらいドキドキしたっておかしくはないのに。
純くんに感じていたものを、全く感じない。
……何か、おかしい。
視界が揺れる中、ふと彼女達の身体のラインに目を止める。
この時期になると、男子達がそわそわする、性的なもの──ブラウスから透けて見える、ブラジャーの線。短いスカートからチラリと見える、絶対領域。髪をアップした時の、後れ毛の残る細い項。
そういったものに、僕は全く関心が無い事に気付かされた。
……おかしい……
家に帰り、逸る気持ちを抑え、兄貴の部屋へと忍び込む。
ベッド下に隠された、数冊のエロ本。
笑顔を浮かべるグラビアアイドルが、際どいビキニ姿で艶めかしいポーズをとった表紙。
……オカシイ……
雑誌を開けば、既に破られた袋とじが。
大きく揺れる視界。
躊躇いながら、徐に捲る。
「………」
感じ……なかった……
女性の半裸を見て、何も反応しない。
僕の世界が、歪んでいく。
眩暈と息苦しさが、同時に襲う。
「……」
思い返せば、反応したのは……純くんの時だけ……
……やっぱり僕は、オカシイんだ……
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