2 / 207

【1】SIDE蓮見(1)-2

 蓮見が勤めるウエストハウジングは注文住宅専門のハウスメーカーだ。「家」は多くの人にとって一生に一度の大きな買い物であり、夢でもある。そして、建て売りや中古住宅と違い、注文住宅というのは形がないまま(・・・・・・)、その夢を売る。  実際に建て始めてから、そこはそうではない、本当はこうなるはずだった、あるいはこうしたかったのだと不満や希望を訴えてくる客は意外に多い。設計の段階で十分な打ち合わせをし、納得した上で着工しているはずなのに、いざ実物を目にすると違うと言い出すのだ。  見慣れない設計図面から完成品を思い描くのには限界があるだろうし、思っていたのと違う部分が出てくるのは仕方ない。だが、図面通りに正しく施行していても怒り出す客までいるのだから、理不尽な話だった。  また、客の多くは、あれだけ大きな金額を出しているのだから、多少の変更が出てもその中でなんとかなると考えるらしい。建築会社が上げる利益の一部を少し削れば済むだけだろうと。  歯ブラシ一本に、どれだけ企業の利益が上乗せされているか気にすることはなくとも、家一軒となると、それを自分が支払っていることを意識するようだ。一生に一度の大きな買い物というイベント感も加わり、客のほとんどが王族か神のごとく強い立場でものを言う。  わざわざ営業を通して、自分から追加の金を出すと言ってくる客は珍しかった。 「どうしても無理なら、その時は僕がお客さんに説明するから、できない理由を教えてほしい。でも、もしできそうなら検討してもらえないかな。工期と金額がわかれば、それを持っていって、もう一度話を聞いてくる」  三井の表情はひどく真剣だった。  黙って腕組みしていると、大きく形のいい目が憂いを帯びてくる。上背のある自分が華奢な三井を苛いじめているような気がしてきて、腹の底のほうが落ち着かなくなった。 「俺がわかる範囲じゃ出せない数字がある。(たに)主任に相談するから少し時間をくれ」

ともだちにシェアしよう!