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【1】SIDE蓮見(1)-3
三井の顔がぱっと輝く。
「……っ」
蓮見の心臓が奇妙に跳ねた。
「……と、とりあえず、今のキッチンにキャンセルをかける。まだ、ギリギリ間に合うだろうけど、ただ、後になってやっぱり今のままでいいって言っても、一度キャンセルしたものは入ってこない。工期は遅れる。それでいいなら」
続いて浮かんだ三井の笑顔を、ついじっと見つめてしまった。
造作が整っているだけでなく、笑うとひどく可愛い。腹の底のそわそわした感じが大きくなり、蓮見は慌てた。
「どうする?」
「うん。頼む。ありがとう。蓮見くんが監督さんで助かった」
嬉しそうに告げられて、動揺をごまかすようにどうでもいいことを口にする。
「蓮見でいい。みんなそう呼ぶし、そのほうが慣れてる。三井さんのほうが年上だし、先輩なんだから……」
真顔に戻った三井に、「つっても、俺がすでにタメ口だけど……」と口の中でぼそぼそ言うと、また笑われた。
にこにこ笑ったまま「うん」と頷いた三井は、見積もりにはどのくらいの日数がかかるのかと聞いてくる。概算でいいなら明日には出せると答えると、忙しいのに手間をかけて申し訳ないと、もう一度深く頭を下げた。
「ありがとう、蓮見く……、じゃなくて、蓮見……。えっと、明日も落ち着いて話ができるのって、このくらいの時間?」
「そうだな……。今、現場が多いからな……」
事務所に戻ってこられるのが八時過ぎ、先に連絡を済ませなければならないものがあり、その後で谷に相談するとなると、やはり十時か十一時くらいになるだろう。
頭の中で計算し「谷さんに見てもらって問題なければ、明日のこの時間には用意できてると思う」と告げる。
「実行予算から概算を出すことになるから、三井さん用の控えは社外秘扱いにしてほしい。できれば手渡しがいいんだけど……」
「うん。じゃ、明日の今頃取りに来る」
ありがとう、と笑う。
それから、少し考えるように首を傾げ、こんな質問をした。
「キッチンの発注って、キャンセルじゃないとダメなのかな? 少しだけ待ってもらうってことはできない?」
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