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【4】SIDE蓮見(1)-4
「少しって、どのくらい?」
「二日か三日、くらいは……?」
「二、三日程度なら問題ない。でも、それ以上は無理だ。オリジナルの標準品だから、キャンセルになれば組み替えてほかに回す」
三井が頷く。
「もしキャンセルした時は、どのくらい遅れる?」
「だいたい、二、三週間くらいか……」
そう、と呟いた三井は、また少し考えてからこう言った。
「概算見積もりが明日もらえるなら、明後日、お客さんのところに行ってくる。それから、キャンセルするかどうか決めるのでもいい? 迷惑かけちゃうけど……」
「金曜日までに返事がもらえるなら……」
しかし、どうしてだ。
意図を掴みかねている蓮見に、三井は必ず金曜日までに一度返事をする。だから、少しだけ待ってほしいと頼んできた。
「……わかった。それまで保留をかけておくよ」
「ありがとう」
嬉しそうに頷いて、三井は最後にもう一度、感謝のこもる目でまっすぐ蓮見を見た。その眼差しに、なぜだかまたそわそわと落ち着かない気分になる。
どうも三井と話していると心臓の働きがよくなる。中学生の頃の初恋のときめきに似たむず痒さもあって、いったいこれはなんだろうと戸惑いを覚えた。
細い背中を見送りながら、いくら顔立ちが綺麗でも、三井は男だぞと自分に呟く。
五つも年上の男だ。
異性としか恋愛をしてこなかった自分は、おそらくヘテロで、こんなふうにドキドキするのはちょっとおかしいのではないかと首を捻る。
ポリポリとこめかみを掻いて、とりあえず建材屋に連絡し、キッチンの納品を二、三日待ってもらおうとメールを開く。明日の朝一番に念のため電話でも確認を入れる。忘れないようにと、メモ書きした付箋をパソコンの画面の端に張り付けた。
液晶の下部にある時刻表示を見ると、今日も日付が変わりそうだった。
新学期までに引き渡しをする現場が多いせいで、年明けから三月までの三ヶ月間、工事部は特に忙しい。
受け持ちの現場を回って戻り、図面と工程表を確認し、必要な部材の発注や職人の手配など済ませていると、あっという間にこの時間になってしまう。
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