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【1】SIDE蓮見(1)-5
一つの家を建てるためには多くのメーカーや卸売業者、職人が関わる。
どこかでミスや変更があれば、全ての行程に影響が出る。
それらを調整し、段取りを組み直し、組み直したものに間違いがないか確かめ、連絡を取り直すのが監督の仕事だ。それだけではないが、それをしているだけで零時を回ることも多かった。
再び時刻表示を見ると、ちょうど数字の頭がゼロに変わるところだった。
結露を知らないペアガラスの窓の外は闇で、鏡のように映し出された社内の人影がようやくまばらになってゆく。
冷え込むフロアで最期の確認作業をしながら、ふと蓮見は思った。
(三井さんも、こんな時間まで仕事してるのか……?)
明日もこの時間に来ると言う。
顔の綺麗さで得をしているのだろうと思っていたが、それだけではないのかもしれない。
蓮見の返事を待つ間の真剣な眼差しと、対応を約束した後に見せた嬉しそうな笑顔が瞼に残っていた。
「谷さん……」
一つ奥の席で蓮見たちの日報をチェックしている上司に声をかける。書類の下には、まだ図面と工程表が広げられたままだ。
「ん……?」
「ちょっと、相談してもいいですか」
「ああ。なんだ?」
初年度の研修時から、蓮見はずっと谷の下にいる。
三井と同じ二十八歳だというが、こちらはガッチリとした身体つきの強面で、かなりの貫録があった。
見た目はゴツいが、谷と言う人は「主任なんていう肩書は、手当を出すために会社がくれたものだ」などと言って、少しも威張らない。早くに結婚していて、小さな子どもが二人と、奥さんのお腹に三人目がいるという優しい父親でもある。
今も、少しもうるさがることなく顔を上げてくれた。
蓮見は、配管をやり直す際の工程の遅れ、それにともなう工事費の概算について尋ねた。
「概算でいいんだな」
「はい」
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