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【9】SIDE蓮見(9)-1

 翌日も三井の部屋を訪ね、四日続けて身体を重ねた。自分でも呆れる。  一週間が過ぎ、三井の休日前になると、再び逢瀬を重ねた。溺れているという自覚はあったが、それ以上に満ち足りていた。  幸せだった。  食事をして、どうでもいい話をして、抱き合った。  会うたびに思いが強くなり、三井がそばにいるだけで、世界の全てに優しくなれる気さえした。  予定よりひと月近く遅れて、三月の下旬にやっと原邸の引き渡しがあった。  相変わらず忙しい毎日の中、谷は約束通り引き渡しに付き合ってくれた。  新井は顔を出さなかった。  谷と二人で、施主に頭を下げた。施主の理不尽な恨み言を黙って聞く。夫人が吐き捨てるように言った。 「あんな階段になるなら、おたくで家なんか建てなきゃよかった」  せっかくのリビングが、あの階段のせいで狭く見えてたまらないとも言った。階段そのものを憎んでいるような言い方だった。  あの家族は、階段を上り下りする度に「こんなはずじゃなかった」と思うのだろうか。  毎朝、毎晩、何十年もの間、不満とともに暮らすのだろうか。  棟梁の田中は、施主にもずるいところがあると言った。だが、営業の対応次第で防げたトラブルだったと蓮見は思う。新井の責任であり、会社の責任なのだ。  それでも、施主がどれほど怒り、恨み言を言っても、契約に含まれないサービスや値引きはできない。それが決まりだからだ。決まりを守り公平であることは、ほかの全顧客への誠意でもある。  一人が得をすれば、ほかの全員が少しずつ損をすることになる。  最終的に支払いに応じた原も、頭では理解したのだと信じたい。新井の曖昧な対応に欲が顔を出て、結果的に思い通りにならなかった。 「引き渡しってのは、本当なら一番いい瞬間なんだけどなぁ……」  社用のバンに戻ると谷がため息を吐いた。  古川展示場は都県境にあり、土地が狭く住宅が密集している。昼に一度本社に戻ることにして、一台のクルマに同乗していた。 「蓮見、最近楽しそうだな。いい人でもできたか」 「あー、はい。まぁ、そんなとこです」  つい顔を緩めて認める。へえ、と谷が嬉しそうに笑った。 「どんな娘こだ。今度、紹介しろよな」  それには曖昧に頷いた。

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