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【9】SIDE蓮見(9)-2
同性の恋人を恥じる気持ちはないが、世間の反応はさまざまだ。
無駄な波風を立てて、三井に嫌な思いをさせたくなかった。
いつか西園寺と衝突したのも、同じことが原因だ。祐希を自分の恋人であるとまわりに示したい西園寺に、蓮見は「やめろ」と言ったのだ。
芸術家特有のある種の愚鈍さから、西園寺は世間がそれほど寛容でないことに気付いていなかった。けれど、まわりの心無い言葉や態度で傷つくのは祐希だ。
何か言うほうが間違っているという正論は、祐希を守る盾にはならない。理不尽な言動はなくならない。
蓮見の言葉の後、西園寺も何か思うところがあったのか、態度を改めた。だが、今なら蓮見も西園寺の気持ちがわかる。
世間の目がどんなに冷たくてもいい。この人は自分のものだと叫びたくなるのだ。どれほど大切な人か、まわりじゅうの人間に伝えたくなる。
それでも、現実は現実。冷静な部分で蓮見は思う。卑屈になる必要はないが、敢えて困難な状況に身を投じるつもりもない。そこに三井を置くなどもってのほかだ。
本社に戻ると大勢の営業マンでごったがえしていた。
月初に行われる営業会議が、年度末ということもあり月末に開かれていた。ざっと百二十名の営業社員が三階の大会議室に集まる。
喫煙所の自販機に向かいかけ、ガラスの向こうの煙の濃さに足を止める。
中は営業マンたちで溢れ、煙草の煙で靄がかかったよう白くなっている。非喫煙者の蓮見が慄くほどの濃度レベルだ。
「次の四半期で二棟上げればいいんだろ。楽勝だよ。俺を誰だと思ってるんだ」
がやがやした中に新井の声が聞こえた。会議のために引き渡しに来なかったようだ。
「だけどさ、新井さんも連続リーチでしょ? パチンコばっかりやってないで、ほんとに本気出さないと、ヤバイよ?」
「クレームも何個か来てるらしいし」
「今日の引き渡しも、営業が行かなきゃまずかったんじゃ?」
「え、行かなかったの? 部長が頭下げに行った現場だろ……」
「客、かなり怒ってたらしいのに」
「あ、だから会議に来たのか」
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