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第1話
ぽたり・・・・・・
ぽたり、ぽたり・・・・・・・・・
何処かで水音がする。
暗い世界に彼は独りだった。
上も下も分からない場所に、彼はぽつんと立っていた。
冷たい風が吹いている。
時には強く、時には弱く、彼の身体を吹き抜けていく。
周囲には何もない。
ただ、暗闇だけが彼を包み込んでいた。
どれだけの時間独りでいたのかは分からない。
ずっと、ずっと独りだった。
そして、これからも彼は独り・・・・・・のはずだった。
今まで足元を見詰めていた彼の視線が、ふっと上を向いた。
誰かに呼ばれたような、誰かの声が聞こえた気がした。
耳を澄ます。
もう一度・・・・・・微かに聞こえた。
彼は一歩踏み出した。
それが聞こえた方角に。
さっきよりも、少しだけ大きく聞こえたような気がする。
更にもう一歩踏み出す。
突然一筋の光が彼の足元を照らした。
何度か目を瞬かせて、その光の先を目で追って顔を上げる。
「起きろ」
そうはっきりと聞こえた。
徐々に光の筋が太くなって、目が開けていられないほど強くなって・・・・・・
「起きろ」
もう一度声がして、光が彼を包み込んだ。
「いつまで寝てるんだ!起きろ!!」
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