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第2話 始まりの朝2p
これは、日下部の見る夢の中。
青い、青い闇の中で、日下部は、目の前にいる天谷 雨喬 と日下部の中学時代の同級生、綾 弓蝶 の二人を凝視していた。
天谷は俯いていて日下部と目を合わせないでいる。
綾は微笑を浮かべて日下部を見ていた。
日下部にとって、天谷は高校からの付き合いで、綾は中学の時の同級生だ。
綾は黒いセーラー服のスカートと黒く長い髪を風になびかせている。
綾の白い肌が眩しく光っている。
天谷は高校の時の制服である紺色のブレザーをピシリと着て、静止している。
風が吹いているのに制服のシワどころか、髪も動かない。
天谷も綾も美しい。
日下部はこれからこの彼と彼女、二人のうちから一人を選ばなければならない。
なぜ選ばなければならないのか、わからないが、日下部は、選ばなければならない。
日下部は悩んでいる。
天谷か、綾か。
綾か、天谷か。
彼女なのか、彼なのか。
彼にすべきか、彼女にすべきか。
日下部の顔は歪んだ。
「ねぇ、日下部くん、私と一緒に遊びましょう」
悩む日下部を綾が微笑を浮かべて誘う。
天谷の方は俯いたまま、無言でいる。
綾の黒く長い髪がさらりと風になびく。
天谷の茶色い髪が微妙に揺れた。
天谷が少し、顔を上げたからだ。
日下部は、指先を彷徨わせる。
綾が微笑む。
「私と一緒に遊びましょうよ、昔みたいに、ねぇ、日下部くん」
日下部の指が一瞬、綾の方へ向く。
「日下部っ……」
天谷が小さな声で日下部の名を呼んだ。
それは途切れ途切れで、耳をすませないと聞こえない、とても小さな、小さな声。
日下部の指が、天谷に止まる。
綾は、「ふぅーん」とつまらなそうに言うと、天谷をジッと見た。
天谷は俯いている。
綾はしばらく天谷を品定めする様に見て、そして日下部に視線を移す。
「ねぇ、綺麗だけど、この子、男じゃない。後悔することになるわよ」
無表情でそう言うと、綾は一歩後ずさる。
日下部は慌てて、「綾!」と声を上げ、綾に手を伸ばす、だが、綾は青い闇に消えていった。
綾が消えた、その瞬間、日下部の頭に痛みが走る。
日下部は思わず呻いた。
「おはよう、日下部」
日下部の目の前に、天谷の綺麗な顔がある。
天谷はなんだか不機嫌そうだ。
(この痛みは、後悔の痛みか……)
日下部は笑った。
「おはよう」
ズキズキと痛む日下部の後悔の痛みはしばらく続いた。
天谷は日下部から目をそらして、ゆっくりと日下部から自分の体を離し、立ち上がった。
日下部はそんな天谷をジッと見る。
(ああ、こいつ、背、高いよなぁ)
日下部は天谷を見上げて思った。
日下部は天谷より少し身長が低い。
「日下部、お早ようじゃなくて、もう遅ようだ」
「え、そうかな」
日下部はスマートフォンで時間を確認して首をかしげる。
(遅いか?)
「そうだよ、今日、十時から講義があるだろ。今、九時十五分だよ、ここを三十分には出ないと遅刻だろ、お前がなかなか起きないせいだ。この講義、今日が初めてなんだから遅刻はよくないだろ」
言いながら、天谷は着ているTシャツを脱いで自分の服に着替えている。
天谷は、シャツのボタンがなかなか留められずに舌打ちを繰り返す。
露出した天谷の肌はとても白い。
「遅刻はよくないとか、大学生にもなって真面目だな」
「お前は大学生にもなって不真面目がすぎるな。早くベッドから降りろ、大学に入学してまだ五日しか経っていないのに遅刻しても大丈夫と思ってるようじゃあ、就職してからやっていけないぞ」
「はぁ、大学に入学したばかりで就職の事を考えなきゃならないなんてやってられんな。だが、しかし、将来のためか」
日下部はしぶしびとベッドから降りた。
天谷と日下部は同じ大学の一年生で同じ学部である。
日下部はのんびりと、天谷はテキパキと大学へ行く支度をする。
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