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第18話 毒2p
「なんだか、お腹すいたな」
天谷雨喬は自身の空腹を、この木造二階建ての安アパートの201号室の主、日下部光平に訴えた。
日下部は観ていたホラー映画のDVDを、リモコンを操作して一時停止した。
大学が終わった後に、天谷、日下部の二人は天谷が観たがっていたホラー映画のDVDをレンタルショップで借りた。
それを今、二人は観ているのだった。
狭く、おまけに少し硬いソファーに男二人で並んで座り、ホラー映画に怯えている様は微妙であった。(怯えているのは日下部の方だけだ)
「そういうことならホットケーキを作って食べないか?」
日下部がリモコンを置き、ソファーから立ち上がって言う。
「え、ホットケーキかぁ。俺、甘い物あんまり好きじゃないんだけど」
「お前、そう言いつつ、なんだかんだで甘い物食べてるだろ。微妙な好き嫌いはよせよ」
「まあ、甘い物を好きじゃないだけであって、別に食べられないわけじゃないからな。食べて不味いとかは思わないし」
「ならいいだろ。大家さんからホットケーキミックス大量に貰って困っているんだ、協力しろよ」
日下部は台所に向かうと、両手いっぱいのホットケーキミックスの箱を持って戻った。
「うわ、なんだよその量、目を疑うとはこのことだな。それだけあるとなんだか怖い」
「もっと怖いことに、これ、賞味期限、近いんだよ。なぁ、天谷、お腹すいてるんだろ? ホットケーキを腹一杯食べろって神さまも言ってることだし、作って食べようぜ」
「神さまがそう言っているんだとしたら、神さまも、もっと世の中のホットケーキミックスを必要としている人にホットケーキミックスは与えるべきだろ。……まあ、いいよ、ホットケーキ作っても。あんまり食べられないかもだけど」
天谷の台詞に日下部はガッツポーズを取ると、「じゃあ、作るか!」とホットケーキミックスを天谷の目の前に突き出す。
天谷は大量のホットケーキミックスと日下部のはしゃいだ様子に少しうんざりしながら立ち上がった。
日下部は、手に持ったホットケーキミックスをとりあえずテーブルに置き、素早く移動して、小さな箪笥の引き出しからエプロンを二枚取り出すと、一枚を手際よく身につけ、もう一枚を天谷に放った。
「え、エプロンつけんの? わざわざ良くない?」
天谷は、めんどくさいという顔をする。
日下部は、「雰囲気出るだろ」と言って、天谷に近づくと、テキパキと天谷にエプロンを着せた。
「うわ、な、なんか」
エプロンを身に付けた天谷の姿を見た日下部が目頭を抑える。
「あ? なにその反応? 似合ってない的な?」
日下部の態度に天谷が口を尖らせる。
「いや、違う! 違う! あー、なんて言うの? お前のエプロン姿ってなんかアレだわ」
「はぁ?」
「いや、何でもない、何でもない。なに考えてるんだよ、俺は! ああ、うん。よし、天谷、ホットケーキ作ろうか! うん!」
「おい、半分独り言って何なんだよ、もう。この間からお前、疲れるな。首、犬に噛まれたとかバカなこと言ったあの日以来、お前の俺への態度、なんかおかしいだろ。なぁ、なんなわけ?」
「お、お前こそ、あの日、なんか俺への態度おかしかっただろ! 俺、何かした?」
日下部が絆創膏を貼った首を片手で抑えながら天谷の肩を揺さぶった。
「うううっ、なな、なんもないっ……もういいし。んっ、やっ、もう揺するなよ、バカっ! 気持ち悪っ……」
「あ、ごめん」
日下部は慌てて天谷を離した。
天谷のエプロン姿に落ち着かない日下部と、日下部に対して不審そうな天谷は二人で台所に立つとホットケーキ作りを始めた。
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