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第56話 天谷、日下部、小宮の高校時代24p
「そんな顔するなよ。心配すんな。小宮はお前を好きだよ。……俺も、お前を気に入ったよ」
日下部は最後の台詞を小声で言った。
その声は天谷の耳に届いていた。
天谷は体がじんわりと温かくなるのを感じた。
そして、天谷は急な恥ずかしさに襲われた。
「あっ、あっ、な、なっ、何言って……」
天谷の頭は混乱していた。
日下部もつい出てしまった自分の台詞に大いに混乱しているようで、焦りの現れた顔をしている。
「いや、あっ、違う! そう言う意味じゃ無くって、リスペクトの意味って言うか! あっ、ほら、保健室、着いたぞ!」
日下部は天谷から視線を外して、いつの間にかたどり着いていた目の前の保健室の扉を音を立てて、がらりと開いた。
保健室の扉を開くとそこには腕を組んで椅子に座っている小宮がいた。
小宮は神経質そうに貧乏ゆすりをしている。
小宮は日下部と天谷の姿を見ると椅子から立ち上がり、二人に詰め寄った。
「お前ら、遅いぞ! 待ちくたびれた! 天谷が怪我ってどういうことだよ! 天谷、誰かに何かされたのか? 大丈夫なのか?」
小宮は夢中で話す。
「怪我とか、そんな、たいしたことないから」
天谷がそう言うが、小宮は聞かない。
「大丈夫なんてことあるか! お前、何で怪我なんてしてんだよ! どれだけ心配させたら気が済むんだ!」
「いや、小宮、その怪我は俺が、予備室で……その……」
日下部がそう口を挟むと小宮は鬼の形相で日下部を睨む。
「はぃぃぃぃ? 日下部、どういうこと?」
「あー、何て言うか、俺が、だな……」
小宮の気迫の前に日下部はかなり気まずそうだ。
「あの、小宮、彼は違くてっ! 俺が窓から飛び下りた時に、少し腕を痛めたみたいでっ!」
慌てて天谷がそう言うと、小宮はこれ以上開かないほどに目を開けて、「は? 天谷、窓から飛び下りたって何だよ? はぁぁぁぁぁー? お前、ちょっと……」と頭を押さえた。
「天谷、お前……」
小宮は大きく深呼吸をする。
そして、小宮は天谷の両肩を思い切り掴んだ。
「こ、小宮?」
呆気に取られている天谷の目を小宮はジッと見つめる。
天谷はその視線から目を逸らせない。
「おい、天谷、良く聞けよ。俺は決めたからな。これから何があっても、俺はお前の側を離れないからな! お前が嫌がっても、絶対に離れてやらないから! 良いな!」
小宮の台詞に、天谷はただ驚いた。
天谷の心臓がズキリと軋む。
コンタクトレンズを外したぼやけた視界がさらに歪んで天谷には見えた。
天谷は心の底から溢れ出る何かを飲みこもうと必死で堪える。
「何とか言ったら?」
小宮が怒ったように言う。
天谷の肩に触れる小宮の手に力がこもる。
その手が温かい、と、そう天谷は思ってしまった。
「俺と一緒にいろよ」
小宮の声が、天谷のぼやけた世界に広がる。
天谷はもう、抗えなかった。
天谷は目をこすり、そして、ただ一つ、頷いた。
「上等な答えだな」
そう言って小宮は天谷の肩に置いた手を離すと、ニヤリと笑った。
「よし、じゃあ、これから三人で直ぐに腹ごしらえしてお化け屋敷行くぜ! 時間ねーから超特急で回るぞ! あ、その前に天谷の怪我の治療しなくっちゃねー!」
笑顔を顔いっぱいに浮かべ、鼻歌を歌いながら小宮がは言う。
それを聞いた日下部の顔が青ざめる。
「ちょっと待てよ、小宮。三人でって、アホか! 何言ってるんだよ! お前ら二人で一緒に文化祭回って来たらいいじゃん。俺は消えるよ」
日下部がそう言うと、小宮は真顔で「何で?」と訊いた。
「何でって、俺だって空気くらい読めるっての! お前らにのこのこついて行ったら俺は完璧にピエロだろ!」
「はぁ? お前、マジで何言ってんの?」
小宮は本気で日下部が言っていることがわからないという風だった。
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