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第57話 天谷、日下部、小宮の高校時代25p

「天谷、コイツがいて何か不都合があるんかいな?」  小宮に訊かれて天谷は首を振る。 「ほら、大丈夫だっつーの!」  小宮は得意げに胸を叩く。  日下部は髪を掻きむしり、「お前ら二人、アホか! この空気でどうお前らの仲に入ってけっつーの! さんざん見せつけといて、これ以上お前らは俺に何を見せたいの? このバカップルがぁーっ!」と二人に怒鳴った。 「は? カップル?」  天谷と小宮が声を合わせて言う。  二人の眉間には皺が寄っている。 「あーもう、お前らのことだよっ!」  日下部がありったけの声を出してそう言ったのと同時に閉まっていた保健室の扉が乱暴に開いた。 「ちょっと、誰よ、保健室で騒いでいるのは!」  そう言って保健室に入って来たのは養護教諭の北原だった。 「何よ、小宮に日下部、後……え、もしかして、天谷君? 嘘、めちゃくちゃ可愛いじゃない! きゃーっ! 凄く似合ってるわよ、女装! 六組は女装カフェだったわね。小宮、あんたの女装は酷いはねー。天谷君の女装は目の保養だわ」  天谷を見て浮かれている北原の台詞に日下部は、「はぃぃぃっ?」と奇妙な叫び声を上げる。 「何? 日下部、目が点になっちゃってるじゃないの。どうしたのよ?」  そう北原に話しかけられても石の様に動かない日下部を指さして、北原は小宮の方に、「どうしたのよ、日下部は?」と訊く。 「さぁ、コイツ、さっきからおかしくて。あ、そう言えば、予備室でどうのって言ってたけど、予備室で日下部と何かあったん、天谷?」 「よっ、予備室でっ? えっ、えーっと……」 「あり? 天谷、何で顔赤くなるん? また熱でも出した?」  天谷は俯いて何も言わない。 「なぁ、日下部、予備室で何があったんだよ?」  急に話を振られた日下部の顔も赤くなる。 「ちょ、二人して何んで顔赤くしてるんだよ。おい、お前ら二人、何かおかしいぜ」  小宮は目を光らせて日下部と天谷を見る。 「おかしいのはお前の方だろ! 話は読めたぜ! 紛らわしい冗談かましやがって! 手間かけさせられたお礼にたっぷりと奢ってもらうからなぁ!」  日下部は小宮の制服の襟を掴むと思いっきりねじり上げた。 「え、日下部、何で急に怒こってるんだよ? 訳わからんよ?」 「うるさい、小宮、お前は死ねば?」 「ええっ? 何だよそれー、天谷、助けて、日下部に殺られるぅー!」 「えっ、俺? 何? あっ、あっ……」 「あんた達、うるさいわよ! 全員、保健室から出て行きなさい!」  校舎に北原の雷が落ちる。 「シンデレラ。  十二時になったら魔法は解ける。  十二時になったらカボチャは馬車になる。  十二時になったらシンデレラはただの娘になってしまう。  十二時を回れば、また魔法がかかる」  通りすがりの女子生徒二人が声を合わせて歌う。  天谷、日下部、小宮の三人は北原に保健室を追い出され、廊下を並んで歩いていた。  小宮は楽しそうで、日下部はふくれっ面をして、天谷は横に並ぶ日下部の顔を少し緊張した顔をして横目に見て、三人は前へ歩く。 「君の名前は?」  天谷が囁く声でそう訊いた。  日下部はふくれっ面のまま、「日下部光平。覚えろよ、天谷雨喬」と言った。  小宮が二人を見て笑う。  歌が聞こえる。  シンデレラ、十二時を回ればまた魔法がかかる。  魔法がまた動き出す。  終

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