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第69話 スリーピーホロウ11p

 後ろに日下部の気配を感じながら天谷は結局日下部に背を向けてしまった自分に呆れていた。 (はぁ、俺って、男らしくないかも。でも、一緒に寝るってだけでいっぱいいっぱいなのに日下部の顔なんか見ながら眠れないもんな。けど、男としては、せめて正面を向いて寝るという選択肢だろ。失敗した)  そう思ってから天谷は、自分が布団を強く握り締めていることに気が付いて、また、呆れた。 (本当、何を緊張してるんだよ。しっかりしろ、俺!)  しかし、そう思えば思うほど、天谷の緊張の糸は張り詰めるようだった。  せめて、うるさく鳴る心臓の音が日下部に聴こえないようにと天谷は祈る。 「天谷」  不意に呼ばれて天谷はドキリとした。 「ななな、何?」  返事をしたが、日下部からの応答はない。 「日下部?」  気になって天谷は日下部の方を向く。  そうしたら、直ぐそこに日下部の顔があった。 「あっ……」  天谷は息を止める。  日下部の手がそっと伸びて、天谷の髪に触れた。  天谷はジッとして動かない。  日下部の手は優しく天谷の髪を撫で始める。  天谷は、そうされるのが何だかとても恥ずかしくて仕方ない。  なのに、その手を振り払えない。 「天谷」  名前を呼ばれても返事が出来ない。  日下部は天谷の髪を指に絡ませながら「天谷、一緒にいてくれてありがとうな」そう囁く。  天谷の目が見開く。  そんなこと、今まで日下部から言われたことは一度も無かった。 「な、何だよ、急に。何でそんな。そんなこと、今まで言ったこと無い癖に……」  日下部の目から視線を外して天谷は言う。  日下部は天谷の髪で遊びながら、「そうだった?」と軽い感じに言う。  天谷は日下部の台詞に頬を膨らませる。 「そうだったよ。だから……だから、今そんなこと言うなよ、ばか!」 「何だよ、それ、ばか呼ばわりってどういうことだよ」 「だって、ばかだろ。夢にうなされて、心配掛けて、不安にさせて……」  天谷は日下部に目を合わせてそう言った。 「……ごめんね」  日下部も天谷の目を見て言う。 「謝るな、ばか!」 「うん」  日下部は、頷いてから天谷の髪を撫でるのを止めて、その代わりに天谷の体を引き寄せて強く抱きしめた。 「うぁっ。え? く、日下部?」  天谷は苦しそうに声を上げる。  苦しくて逃げ出そうとしたが、痛いくらいに抱きしめられていてそれは叶わなかった。 「ごめん。少しだけでいいから、このままで……お願い」  耳元で切なげにそう懇願されて天谷は痺れるような感覚に襲われる。 (ダメだ。おかしくなる)  天谷は自分を拘束する体を離したくて、抱きしめる日下部の手に自分の手を重ねた。  触れた日下部の手は冷たくて、震えていて。  天谷にはどうしてもその手を振り解くことが出来ない。 「天谷、嫌?」  心細そうなその声に、天谷は日下部の胸の中で首を振って答えていた。  しかし、そうしてから、急に恥ずかしさに襲われる。 「あっ、あの、でも、俺、冷え性で体冷たいけど」  顔を上げて、日下部の目を見て天谷は言う。 「別にいいよ。天谷、冷たくて気持ちいいよ」  日下部が真顔で返す。  天谷はとっさに日下部の視線から逃れて言い訳を頭に浮かべる。 「髪の毛、濡れてるし」 「直ぐに乾くだろ」 「あっ、あっ……俺、体……硬いし、抱き心地? 良くないと思うけど」 「そんなことないよ」  そう言って日下部は天谷の体を指で撫でた。  天谷の体が跳ねる。 「うっっ。あっ、あの。俺……男……だけど」 「知ってる」 「あっ……」  天谷は言葉を探す。

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