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第122話 テノヒラノユキヲ見ㇽ日7p

「いやぁ、えーとだな。何て言うか……あっ、俺、買い忘れた物があって、さっきの売り場に戻りたいんだけど、お前、ここで待っててくれる?」  歯切れ悪くそう言った日下部に天谷は、「それなら俺も、一緒に行くよ」と返した。  しかし、日下部は、「いや、いいから、ここで待ってて、直ぐ戻るから」と言って、一人で走り出だす。 「ちょっと、日下部!」  戸惑う天谷を残して、日下部は反対方向のエスカレーター側へ消えた。 「何だよ、日下部の自分勝手!」  もういない日下部に向けて天谷は毒づいた。  曇った顔で天谷は日下部を待つ。  日下部は中々戻って来ない。 (日下部、どうしちゃったんだろう。直ぐに戻るって言ってたのにな)  エスカレーターを見上げる天谷。  けれど、日下部が下りてくる様子は無い。  心細い。  そう感じて、天谷は首を振った。 (あるわけないって、日下部がいないだけで心細いとか、そんなわけ)  そんな訳無い、と天谷は自分に言い聞かせて、再びエスカレーターを見上げた。  すると、日下部がエスカレーターを駆け降りてくるのが見えた。  日下部の姿を見て安堵している自分に天谷はどぎまぎとする。 「天谷、待たせた。ごめん。レジが混んでて」  エスカレーターを降りた日下部は、ここまで走って来たようで、苦しそうに息をしていた。 「別に良いよ。お前も彼女の為に大変だな」  天谷が言うと、日下部は、「ん、ああ、まぁな」と、微妙な笑みを浮かべて言った。 「走って来たら、お腹すきまくったわ。早くラーメン食べに行こうぜ」  日下部はそう言うと、天谷のコートの袖の裾を引いて、下りのエスカレーターに乗る。 「えっ、うわっ、ちょ、ばか! いきなり危ないって!」  日下部に引っ張られて危うい足取りで天谷はエスカレーターに乗った。  二人はカササギデパートを出ると、駅の方へ戻り、道沿いに並ぶ店の中に紛れた小さなコンクリートのビルの中に入った。  このビルは、いくつかのテナントが入っていて、その中の一つが日下部おススメのラーメン店なのだった。  店は二階だ。  日下部と天谷は階段で二階まで上る。  エレベーターもあったが、日下部が階段で行こうと言うので、天谷は渋々とそれに従った。  二階に着くと、二つ飲食店があった。  二つともラーメン店で、花丸屋と、きみ灯篭(ドウロウ)。  日下部のおすすめは、きみ灯籠の方だった。  日下部は、黒いカーテンの引かれた店の扉を開け放ち、天谷に先に入るようにと勧める。  天谷が、恐る恐る、という感じで店に入る。  日下部が天谷の後ろから続いた。  店に入って中の様子を見た天谷の口からは、感嘆の声が漏れた。  店の中には星が瞬いていた。  店の中は、プラネタリウムのようになっていた。  天井や壁や床に小さな宇宙が広がっている。  店のテーブルは、それぞれのテーブルに置かれた小さなライトで照らされていた。  そして、店にはシューベルトが静かに流れていて、それに応えるかのように、客達は静かにラーメンを啜り、静かに語り合っている。  とてもラーメン店とは思えない雰囲気だが、店にはラーメンと油の匂いが立ち込めていた。

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