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第121話 テノヒラノユキヲ見ㇽ日6p
「止めろよ、ばか! 何か、恥ずかしいから!」
天谷は思いっきり手を引いた。
日下部の手が勢い良く離れる。
「悪い。だって、お前の手、衝撃的な冷たさだぜ。有り得ねーよ」
「あり得るんだばか! お前、真面目に彼女のプレゼント選べよ!」
「怒るな、血圧が上がるぞ」
「おばあちゃん心配するみたいな言い方するな、ばか!」
天谷の返しに日下部はゲラゲラ笑う。
そんな日下部を見て天谷は不貞腐れる。
「もう、怒るなよ。彼女にはさっき見たアクセサリーが良いかな」
そう言うと日下部は、天谷の髪を手で、ぐしゃぐしゃにかき混ぜてから天谷から離れて、毛糸で出来たチャームのついたネックレスを見に行ってしまった。
「もう!」
天谷は、日下部にいじられた髪を不貞腐れた顔のまま整えて、日下部に背中を向けて、毛糸で編んだ鯨のぬいぐるみを手に取っていじる。
鯨は大きな口から歯をニッと出して目を細めて笑っている。
(この鯨、日下部に似てるかも)
天谷の頬が緩んだ。
「天谷、お待たせ」
店で買い物を済ませた日下部が毛糸のぬいぐるみとにらめっこをしている天谷の顔を覗き込んだ。
日下部は、天谷が手にしているぬいぐるみを見ると、「それ、欲しいの?」と、言ってニヤリと笑った。
天谷の顔が赤くなる。
「別に、ただ見てただけ」
天谷は、ぬいぐるみを売り場の棚に戻した。
日下部は、ニヤニヤしながら「本当は欲しいんだろ?」と言って、天谷をからかう。
「違うってば、ただ見てただけだよ」
日下部に似ていると思って。
「はいはい、そうムキになるなよ」
「もう、ムキになってなんかないから!」
そう言うと、天谷は日下部にそっぽを向いてしまった。
日下部は、仕方ないな、と言う表情で、「なぁ、怒った?」と言う。
「別に、怒って無いし」
尖った口調でそう言う天谷。
苦笑いする日下部。
「そうだ、天谷、お腹空かないか?」
ご機嫌取りに日下部はそう訊いてみた。
天谷が日下部の方をやっと振り向く。
そういえば、朝から何も食べていなかったことを天谷は思い出す。
「お腹、空いてるかも」
上目遣いに天谷がそう言うと、日下部が、「ラーメン食べに行かないか? 美味い店があるんだよ」と満面の笑みを浮かべて提案する。
天谷は、うーん、と考える。
考えた所で食べたい物なんて天谷には特にないし、だから、「ラーメン、良いよ」と天谷は答えた。
「じゃあ、行こうか。店はデパートの外だから、デパートから出よう」
「うん、わかった」
二人は売り場から出ると、下りのエスカレーターに乗った。
二階まで来て、天谷が一階へ下りるエスカレーターに乗ろうとしたところで、日下部が急に天谷の腕を掴んだ。
天谷は、怪訝そうな顔で足を止めて日下部を見ると、どうしたんだ? と訊いた。
訊かれた日下部は、少し困った顔をした。
「何だよ、その顔。急に腕を掴んで引き止めて、何なんだよ」
天谷の台詞に、日下部はさらに困った顔をする。
そして、思いついたかのように、こう言った。
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