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第219話 日下部のバイトの風景1p
ある日の朝。
日下部は部屋の脱衣場で洗面台の鏡に映った自分の顔を見ていた。
今日の日下部は、髪をオールバックにしている。
普段は髪で隠れている日下部の形のいい耳が露になっていた。
日下部のオールバック姿は、大人の色気は醸し出されてはいなかったが、青年の爽やかさがにじみ出ていてそれなりに様になっていた。
(うーん、一部、髪が寝癖でハネちまってるけど、まぁ、こんなもんでいいか)
心の中で、そう言うと、日下部は脱衣場を出て、床に置いてあったリュックを背負い、玄関口へと向かう。
日下部はこれからアルバイトへと向かうのだった。
日下部が部屋を出ると、夏の朝の太陽の光が日下部をほんのりとした暖かさで照らした。
日下部は、あくびをしながら体を伸ばした。
アパートの錆びた鉄の階段を下りながら、日下部はスマートフォンでメールを打つ。
メールの相手は天谷だった。
八月十日まで、日下部は毎日アルバイトだ。
アルバイトがある間は忙しく、日下部は天谷には会えない。
だから、毎日、日下部は天谷にメールか電話をしている。
朝と昼と夜の三回。
天谷との繋がりを確かめるように、日下部の方から連絡を入れる。
この間、一度だけ、天谷の方から連絡があったことがあった。
天谷から、メールでキス。
思わぬサプライズに日下部は喜んだものだった。
『天谷、おはよ。これからバイト行って来る。お前、ちゃんと起きてる?』
そう日下部がメールを送ると、数秒後に天谷から返事が返って来る。
『おはよ。まだベッドの中。眠たい。日下部、バイト、頑張って』
天谷の返事に日下部は呆れる。
『まだベッドの中って。まぁ、夏休みってそういうもんか。今日も図書館行くのか?』
日下部はメールを送信する。
日下部は、もうアパートから離れて、駅の方への道を歩いていた。
日下部はアルバイトを掛け持ちしている。
今日のアルバイト先は繁華街にあり、日下部のアパートの最寄り駅から二駅ほどの場所だった。
駅までは徒歩十分。
まぁまぁの距離だ。
天谷からメールの返事が来る。
『うん、図書館行く。今日は史郎と一緒』
日下部は、不二崎史郎の名前を聞いて、眉を顰めた。
不二崎は天谷の大学での友達らしい、と日下部は天谷から聞いている。
人見知りをする天谷に友達が出来たことは喜ばしいと思う反面、日下部は不二崎と天谷が付き合うお陰で、天谷との時間が減ったことに不満を抱いていた。
(はぁ、不二崎君、ねぇ……。こいつさえいなかったら、天谷と、がっこで昼飯一緒に食ったり出来るのに。天谷も、何かっつーと史郎、史郎って。大体、天谷のやつ、俺のことは苗字で呼ぶくせに、何で、不二崎のやつは名前で呼んでんの? 何かイラつく)
日下部は、はぁっ、とため息を吐き、天谷へメールを打つ。
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