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第220話 日下部のバイトの風景2p

『ちゃんと飯食って行けよ。栄養のあるやつ』  食生活にいい加減な天谷に掛けるいつものお決まりの台詞。  天谷から返事が返って来る。 『ん、わかってるから。昨日、サラダとパンとハム買ったから、それ食べてく』   天谷のメールを見て、日下部は、おおっ、と声を上げる。 (天谷のやつ、最近、ちょっと素直じゃねーか? 反抗的な感じも、からかいがいがあって良かったけど、素直な天谷、何か可愛い)  日下部の口角が自然と上がる。 『天谷は素直な良い子になったなぁ』  そんなメールを日下部が送ると、天谷から、『ばか!』と返事が返って来る。    天谷とたわいもない話のやり取りをしている間に日下部は駅へと辿り着く。  電車の中でも天谷とのメールのやり取りは続いた。 『日下部、俺、起きて、そろそろ図書館に行く準備するからメール終わりにしてもいい?』  天谷からそんなメールが来て、二人のメールでの会話は終わりになった。  電車に揺られること数分。  目的の駅に着くと、日下部は人の波に流されるように電車を降りる。  駅を出て、賑やかな街の繁華街へと日下部は歩く。  幾つもの若者向けの店を横切り、大通りに出て、喧騒の溢れる長い通りに入ってゆく。  飲食店が多く連なるその通りの、蔦で覆われたコンクリートの三階建てのビルの地下に日下部のアルバイト先はあった。  その名も、アンダーグラウンドと言う。  地下だからアンダーグラウンド。  わかりやすい名前だった。  アンダーグラウンドは、カフェandバーである。  昼間はカフェを、夜はバーを営むアンダーグラウンドのカフェタイムのギャルソンを日下部は勤めていた。  地下への階段を下りて、コンクリートの壁に小さなガラス窓のある店の前に日下部は立った。  店先は綺麗に掃除されている。  まだ、closeの看板がドアノブに掛かった店のドアを日下部は開き、中へと入る。  アンダーグラウンドの店の広さは、まぁまぁの広さで、喫煙室も備えてあった。  綺麗なコンクリートの壁に、ワックスでよく磨かれた濃い木の色のフローリングが気持ちいい。  座席は、長いカウンター席の他に、二人掛けから四人掛けまでの席が数席用意されている。  店の所々に大きな植木鉢に植えられた観賞用の木が置いてあり、地下であることを忘れさせる。  店の照明は落ち着いた明るさだった。 「日下部君、おはよう」  カウンターの奥から、黒のシャツに黒のエプロン姿の背の高い、薄茶色の髪の男が出て来て言った。  男は、三十を少し過ぎたくらいに見えるが、まだ少年のような無邪気さを宿した瞳の持ち主で、よく見れば大変魅力的であった。  体も引き締まっており、年齢を感じさせない。  この男が、アンダーグラウンドのオーナーであり、マスターであった。 「うっす、織戸(オリベ)さん」  日下部が、男……織戸に腰を折って頭を下げて挨拶をする。  織戸は、ははっ、と笑う。 「朝から元気だな。着替えておいで。コーヒーご馳走するから。仕事はその後で」

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