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第221話 日下部のバイトの風景3p
そう言われて、日下部の目が輝く。
「はい!」
日下部は元気よく返事をすると、カウンターの中に入り、カウンターの奥の脇にある小さなロッカールームへ入って着替えをする。
白いシャツに黒のズボン。
それに黒いエプロン。
これが、アンダーグラウンドの制服だった。
胸元には白いネームプレートが下がっている。
日下部がロッカールームを出ると、コーヒーの匂いが鼻をかすめた。
笑顔の織部が日下部を待っていた。
「着替え、相変わらず早いね。コーヒー入ったから飲みな」
日下部は白いコーヒーカップの置かれたカウンター席に座ると、コーヒーの香りを楽しんだ後、コーヒーを啜った。
「んーっ、美味いっすね。織戸さんのコーヒーは宇宙一です。これを飲むと、今日一日、仕事頑張るぞって思えます!」
「ははっ、日下部君、言い過ぎだな。でも、ありがとう」
自分もコーヒーを飲みながら織戸は言う。
「俺も、織戸さんみたいなコーヒーが入れられるようになれるかな」
日下部がそう言うと、織戸は優しく笑って「俺みたいかどうかはわからないけど、日下部君は器用だから、今でも十分にお客様にコーヒー出せるけど、もうちょっとだな」と言った。
「ううっ、精進します」
悔しそうに日下部が言うと、織部は、ふふっ、と笑う。
日下部がコーヒーのカップを空にして、カップとソーサーを綺麗に洗ってしまうと、織部が、「じゃあ、そろそろ仕事して貰おうかな」と言う。
日下部は、元気に、「はい」と言う。
日下部の仕事は、店の掃除から始まる。
と、いっても、だいたいのところは織部が終わらせてしまっているから日下部のやることはほんの限られたことだ。
日下部はテーブルの上に上げられた椅子を床に下ろして椅子とテーブルを真っ白な布巾で綺麗に拭いてゆく。
織戸はカウンターの奥で料理や飲み物の準備をしている。
織戸の鼻歌がカウンターの奥から聞こえてくる。
織戸は寡黙な時もあれば陽気な時もあり、今日の織戸は陽気であるらしかった。
聞こえてきた鼻歌は、日下部も知っている曲で、つい、日下部も鼻歌に合わせてハミングする。
そうすると、カウンターの奥から織戸の笑い声が聞こえた。
思わず日下部も笑う。
椅子とテーブルの拭き掃除が終わると、日下部は、今度は喫煙室の掃除を始める。
喫煙室の掃除は念入りに。
喫煙室が終われば、手洗いの掃除。
ここも念入りに。
これで、日下部の掃除の仕事はお終いだ。
「織戸さん、終わりました」
日下部が、カウンターの奥の織戸に声を張り上げてそう言うと、織戸がカウンターに出て来た。
「俺も終わった。店、開けようか」
「うす」
日下部は、今日のメニューが書かれた黒板式の看板を店の外に出すと、扉に掛かったcloseの看板をひっくり返す。
看板の文字がopenに変わる。
午前十一時。
カフェandバー・アンダーグラウンド、オープンである。
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