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第222話 日下部のバイトの風景4p
オープンと同時に、アンダーグラウンドの常連客がやって来る。
彼らの大体が年寄りだ。
彼らはコーヒー一杯でゆっくりとアンダーグラウンドで時間を潰してゆく。
ある者は新聞を読み、ある者は本を読み、ある者はマスターである織戸と雑談を交わし、またある者は、時に新参者の日下部をからかう。
たった一杯のコーヒーで居座る彼らを、織戸は極上の客であるかのようにもてなす。
織戸が客に見せる愛情を、日下部は素直に尊敬出来た。
そして、時はランチタイム。
アンダーグラウンドは急に混み出した。
女性客を中心に、二人連れから四人連れの客がAランチ、Bランチの二択を求めてやって来る。
日下部は猫の手も借りたい忙しさで店の中を回る。
「日下部君、私、Aランチ」
OL姿のポニーテールの女性客がにこにこしながら日下部に言う。
「はい、Aランチですね」
日下部は素早く伝票に書き留めた。
「私はBランチ」
彼女の連れのやはりOL姿の、こちらはショートカットの女性が言う。
「はい、Bランチっと」
「ねぇ、日下部君、今度はいつバイト入ってるの?」
ポニーテールの女性客が訊く。
「えっ、今度、ですか? えっと、明日ですけど」
日下部が答えると、二人の女性客は見る間に笑顔になった。
「じゃあ、私達、明日も来るからぁ」
甘えた声で、ショートカットの女性客が言うと、ポニーテールの女性客は頷いた。
日下部は、にっこりと笑い「本当ですか。嬉しいです!」と元気に言う。
日下部の台詞に、二人の女性客は、ふふっ、と笑みをこぼした。
日下部はカウンターの奥にいる織戸に、声を張り上げてオーダーを伝える。
織戸から「了解」と返事が返って来る。
アンダーグラウンドのアルバイトは日下部ただ一人だけ。
日下部がいない時は、織戸一人がこの店を回していることになる。
今、接客だけでも日下部一人で手に余る感じでいるのに、織戸は一人で一体どう店を回しているのか。
店のドアが開いた。
また客がやって来たのだ。
「いらっしゃいませ!」
額の汗を拭い、日下部は客の案内へと急いだ。
「すみませーん! お勘定!」
客がテーブルで声を張り上げている。
アンダーグラウンドの会計はテーブルで済ませることになっている。
「はーい! 少々お待ち下さーい!」
日下部は、会計を求める客の席を確認すると、新しい客の案内をテキパキと済ませるのだった。
テーブルからテーブルへ、日下部は蝶のように舞う。
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