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第223話 日下部のバイトの風景5p
「日下部君、AランチとBランチ上がった」
カウンターから織戸の声。
「了解!」
忙しさに心の中で悲鳴を上げる日下部だったが笑顔は絶やさない。
そんな日下部を見て、ある女性客のグループがこう話し出す。
「日下部君って、本当、よく働くよね」
「本当。彼を見てると、私も頑張らなきゃって思えるわ」
「ねっ、頑張ってるとこに癒されるよね」
「ギャルソン姿も様になってるし」
頑張る日下部の姿は、今や、女性客を中心にアンダーグラウンドの名物になっていた。
日下部は、空いた皿を下げてカウンターに置いた。
カウンターの中で、コーヒーを入れていた織部が、「ありがとう」と笑顔を浮かべて言う。
「どうもっす。コーヒー、どこのテーブルのですか?」
日下部が訊くと、織戸から「三番」と返事が返って来る。
「じゃあ、出来たら持っていきます」
「ありがとう」
織戸は店を見回すと、「お客さんでいっぱいだね」と満足そうに言う。
「そうっすね」
ちょっと疲れていた日下部は複雑な気分で応えた。
「さ、ランチタイム終了までもう少しだから、気合入れていこうか!」
織戸の一言に、日下部は力いっぱい、「はい!」と答えた。
ランチタイムが終わり、店の客が誰もいなくなったタイミングで日下部は休憩に入った。
織戸も一休憩中だ。
カウンターの隅の席に座り、織戸お手製のサンドイッチを食べながら、日下部は織部と雑談を交わす。
「いやぁ、日下部君が来てくれたお陰で、日下部君目当ての女性客が増えて良かったよ」
コーヒーを啜りながら織戸がそんなことを言う。
「そんなこと無いっすよ。俺なんかよりも、織戸さん目当て、じゃないですか? 織戸さんのこと見てる女の人、結構いますよ」
「そうなの? 知らなかったな」
織戸はそう言うが、客のことをよく見ている織戸が知らないはずは無い、と日下部は思った。
「あっ、織戸さん、俺、ちょっとメールしても良いですか?」
そわそわした様子で日下部がそう言うと、織戸は、「ああ、例の付き合ってる子にメール?」とニヤリと微笑み、言った。
日下部は付き合っている相手がいることを織戸には話している。
相手が男とまでは話していないが、織戸は日下部に付き合う相手がいることを知る、唯一の存在だった。
「はい、ちょっと、相手が何してるか気になって」
「日下部君って、意外と独占欲が強いタイプなんだ」
「そう……何ですかね?」
「無自覚のそういうのは怖いよ。ちゃんと自覚しなきゃ。俺は独占欲が強いんだって」
思わぬ忠告に戸惑う日下部。
「……はい」
そうは答えたものの、どうしたら良いのかわからない日下部だった。
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