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第224話 日下部のバイトの風景6p

 日下部は天谷にメールを打つ。  それは、何てことの無い文書。 『天谷、今何してる?』  日下部のメールに、少し間を開けて天谷から返事が届く。 『日下部、バイトお疲れ様。今、史郎と図書館で本読んでるとこだけど。太宰治。日下部は、今バイト、休憩中?』  日下部が、昼休憩中に今何してる? と訊いても、天谷は大抵本を読んでいるか昼ご飯を食べているかだった。  それがわかっていても、つい「天谷、何してる?」と日下部は訊いてしまう。  日下部は返信のメールを打つ。 『うん、そう。休憩中。お前、昼はちゃんと食ったか? てか、太宰かよ!』  食事の確認。  これもお決まりの台詞。  天谷からの返事が来る。 『食べた。売店でおにぎりとカップのお味噌汁とオロナミン買った。おにぎりの具は梅しそだった。うん太宰。ろまん灯籠』  日下部は返事を返す。 『梅しそ、美味そう。食事、まぁまぁだな。いつまで図書館いんの? ろまん灯籠知らねー』  天谷から返事が来る。 『んー、十八時まで。読みたい本、沢山あって、時間足りないよ。ろまん灯籠、面白いよ。読めよ』  日下部は、はぁ? と声を上げる。  日下部はサクサクとメールの返事を書き終えて返信する。 『十八時って、お前、本読み過ぎだろ。がっこの課題とか、ちゃんとやってんのかよ! 俺にもろまんが欲しいです』  天谷から直ぐに返事が返って来る。 『やってるよ。日下部の方こそ、バイトばっかで課題大丈夫かよ? 俺も、浪漫欲しいです』  日下部は、うっ、と吐息をつく。 『やってるよ、一応。あのがっこ、課題、多過ぎね?』  天谷からの返事。 『うん、多いかも。学生の夏休みなんかどうでも良いんだろうな。日下部、今日、バイト、何時まで?』  日下部の返事。 『んー、夜の十時まで』  日下部のアンダーグラウンドでのアルバイトは十七時までだったが、それが終わったら日下部は、もう一つのアルバイト先へ向かうのだった。 『そか、本当に全然会えないんだな』  天谷からそんなメールが届く。 『何だよ、俺と会えなくて寂しいかよ』  なんて、日下部は訊いてみる。  少ししてから、天谷から返事が来る。 『うん、寂しいかも。顔が見たい』  日下部はスマートフォンを握る手に力を入れて、食い入るように画面を見た。 (うわっ、何だよ、こいつ。前はこんなの、そんな訳無いだろ、とか言って冷たくあしらってたのに……何なの? こんなの、俺だって顔見たい……会いてー!)  日下部は返事をどうしようかと悩む。 (俺も顔が見たいと伝えるべきか。しかし、何だか気恥ずかしいな。困った。天谷からこんな台詞が返って来るなんて夢にも思わなかった)  天谷の態度が変わったのは、恋人アプリと赤式に寄る所だが、しかし、それを日下部は知らない。

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