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「お誕生日おめでとうございます」 マツバはそう言うと、綺麗にラッピングされたプレゼントの箱を差し出す。 「ありがとう、マツバ。嬉しいよ」 それを大切そうに受け取りながら、西園寺が整った顔がほころばせた。 結局あれからあの破廉恥な喫茶店はすぐに辞めた。 辞めさせられたと言った方が正しいかもしれない。 当然だ。 カードのランクを無視した完全に禁止行為をやってしまったからだ。 こんな事は前代未聞だとオーナーにも呆れられたが、マツバ自身にとっても前代未聞な出来事だった。 カップの中とはいえ、好きな人の前で盛大に粗相してしまったのだ。 あれを思い出すたびに、毎回羞恥でどうにかなってしまいそうになる。 恥ずかしさのあまり、しばらくはコーヒーカップを見るたびに顔を真っ赤にしていたくらいだ。 しかしマツバが辞めた後、どうやらが新しくメニューに加わったらしい。 メニュー名はだとかなんとか。 アオキから嘆きのようなメールをもらった時は、本当に心の底から申し訳なく思った。 喫茶店を辞めた後、マツバは元々働いていた居酒屋の仕事に戻った。 稼げる金額は少なくても、真面目にコツコツと働いた方が自分らしいし、何よりも西園寺に余計な心配をかけたくなったからだ。 残りの金額を稼いでいる間に彼の誕生日は過ぎてしまったが、目標額は無事に達成して今日ようやくプレゼントを渡すことができた。 ハッピーエンド。 全ては丸くおさまった…ように見えるだろう。 しかし、一つだけ困ったことが起こるようになった。 西園寺の嫉妬心がかなり強くなってしまったのだ。 「これからは出し惜しみなしでいく」と宣言された通り、彼は些細なことでも嫉妬をするようになった。 例えば道を歩いている時、すれ違いざまに人と身体がぶつかったりするだけで。 例えば仕事中、客と注文のやり取り以上の会話をしただけで。 「許せないな」 そう言われて、その夜は大抵お仕置きをされてしまうのだ。 しかもそれは日に日にエスカレート。 最近では昼夜問わずお仕置きされるようになってしまっている。 今日だってそうだ。 朝観ていたニュースにゲストで出ていた俳優を少し褒めただけなのに、「浮気だ」と言われお仕置きを受ける羽目になってしまった。 「ちゃんと入れてるか?」 プレゼントをひとしきり堪能した後、西園寺が艶っぽく訊ねてきた。 その手は服の上からマツバの尻を撫で回し、妖しく揉みしだいてくる。 「…ん…っ、はい」 マツバは従順に答えると、とろりと瞳を潤ませた。 マツバの後孔には朝からずっとローターが埋められている。 しかも微弱だがずっと小刻みに震えているため、快楽に弱いマツバは立っているだけでもやっとな状態だった。 それなのに、今日はその状態でデートに連れ出され、買い物や食事までさせられたのだ。 四六時中疼いていた身体をどうにかして欲しくて、マツバは訴えるように腰を揺らした。 「お前は本当に素直でいじらしいな」 クスリと笑われてかぁっと顔が熱くなる。 浅ましい自分が恥ずかしい。 けれど毎晩のようにお仕置きを受けていたら、こんな風に淫らになってしまうのは仕方ないことだと思う。 「今日はプレゼントをもらったからな、いつも以上にかわいがってやる」 「覚悟してろよ」と耳元で甘く囁やかれて腰が砕けた。 もしかしたら一番問題なのは、西園寺ではなくその嫉妬やお仕置きを喜んでいるマツバ自身じゃないだろうか。 西園寺からされる嫉妬やお仕置きなら、いくらでも受け止めれそうな気がするのだ。 このままいくといよいよ西園寺なしでは生きていられない体になってしまうだろう。 まさに彼専属の破廉恥な身体に。 広いベッドに押し倒されながら期待に胸が高鳴った。 今夜もきっとひどく泣かされる。 end.

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