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第1話
レジ台の上に置かれたペットボトル。
それに手を伸ばして、ピ、とバーコードリーダーにかざす。
「百八円です」
レジスターに出た数字を無感動に口にして、ペットボトルをレジ袋に入れようとした手首を、不意に掴まれてぎょっとした。
オレの手を無遠慮に掴んだそいつは、てのひらをくるりと上に向けさせて、そこにじゃらりと小銭を置いた。
「はい。百八円、ちょうど」
へにゃりと目尻を下げて笑う、整った顔を、オレは一瞥して。
小銭を握り込んだ左手を思い切り振って、奴の手をほどいた。
パパっとレジを操作して吐き出されたレシートをむしり取ると、袋と一緒にそれを突き出して、
「ありがとうございました」
と、平坦な声で応じた。
「ねぇねぇ奏 さん。今日何時まで?」
オレの手をスルーしたそいつが、ポケットからスマホを取り出しながら馴れ馴れしく話しかけてくる。
「ありがとうございました」
もう一度棒読みでそう告げて。
オレはペットボトルとレシートを、グレーのブレザーの胸元へと押し付けた。
「おっと強引。でもそんな奏さんも好きだよ」
へにゃり。
目尻を垂らして笑う男の顔に、殺意を覚える。
「さっさと帰れこのガキ」
胸の中で呟いたつもりが、うっかり声に出てしまった。
「なんで? いま暇そうじゃん」
「レジだけが仕事じゃねぇんだよ。邪魔だ」
吐き捨てた俺は、身を屈めてごそごそとレジ袋の補充をする。
「か~な~で~さ~ん。今日何時まで? 俺待ってるからさ~」
間延びした声で呼ばれて、オレはチラと目線を上げた。
カウンターから上体を乗り出したそいつが、ニコニコと微笑んでいる。
最近のガキは顔もスタイルも芸能人並みだな、とオレはそんな感想を抱いた。
こんなふうに懐かれて、好きだとか口説かれたら、落ちない奴は居ないんだろうな。まぁオレは落ちないけど。
オレが相手をする気がないことを悟ったのか、気付けばそいつの姿は店から消えていた。
オレはホッと息を吐き出して、ようやく慣れてきたコンビニの仕事に精を出したのだった。
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