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第7話
先日のタイマンも完敗という結果に終わったが、怪我が完治したら雪柊はまた挑むつもりでいた。
肋骨にヒビが入っており、病院で一ヶ月は痛むだろう言われてしまった。
ケンカをしない日々は退屈で、友達もいない雪柊にとって、九十九と佐島くらいが唯一話せる相手とあって、毎日昼休みになると九十九の前に姿を現しては、覚えたてのタバコを屋上で九十九と吸うのが日課になっていた。
ただ、あの日の九十九とのキスが頭から離れたことはない。無意識に薄く形の良い九十九の唇を見つめている自分がいて、一人気恥ずかしい気持ちになる。
「九十九さん、ルシファーに入ったんですか?」
いつものように二人は屋上でタバコを燻らせいた。
「ああ……昨日正式にな」
珍しく雪柊はキラキラした年相応の目を九十九に向けている。
「なんだよ、おまえ、ルシファーに憧れてんのか?」
いつもと違う表情に九十九は面食らう。
大きく頷き、
「オレの目標は二つあって、まずあんたにタイマンで勝つ事。あと、一つはルシファーに入る事。あんたのコネで入れさせてくんねーかな?」
九十九は持っていた雑誌を丸めると雪柊の頭を叩いた。ポコっと鈍い音がする。
「あんたじゃなくて、さん付けしろって言ってんだろ……何遍言わせんだ。もう一本肋骨折っとくか?」
思わず雪柊はギクリと肩を揺らし、折られた肋骨に手を置いた。
「中学生は基本入れねーよ」
「じゃあなんで、あんた……九十九さんは入れたんですか?」
「まぁ、特別待遇だな」
九十九は得意げな顔を浮かべている。
「オレと佐島と玄龍……太刀川玄龍 ってオレと同い年の奴がいるんだけど……今回特別に入る事を許された。代替えで人もいないのもあったけどな」
「バイクは?」
「大きな声でじゃ言えないけど、無免許で乗ってる」
いたずらを企む子供のような顔をして九十九は言った。
(かわいい……)
雪柊はあまり普段見ない九十九の子供っぽい顔を見て、そんな事を思ってしまう。
「オレも今バイク買うのに年ごまかしてバイトしてんです」
その言葉に九十九は、何?と険しい顔を浮かべた。
「なんのバイトしてんだよ」
その言葉と同時に雪柊は右腕を強く掴まれた。九十九に強引に引き寄せられ、九十九の顔が目の前までくる。
「なんのって……工事現場っす……」
きょとんとした顔で九十九を見る。
「工事現場……?」
「親父が行ってる現場で……」
「そ、そうか……」
九十九は慌てて手を離した。
「なんのバイトしてると思ったんですか?」
九十九は雪柊に背中を向け、誤魔化すようにタバコに火をつけた。
「いや……なんでもねえよ」
まさか、その綺麗な容姿を利用して良からぬバイトをしているのではないかと勘ぐってしまったなどと言えない。
「聞いて下さいよ!で、やっと五万円貯まったんですよー」
ジャーンと効果音を付けて内ポケットから茶封筒を取り出し、万券の束を九十九に見せた。
「おおー、すげーじゃねえか。てか、学校持って来るなよ!失くしたらどうすんだよ」
「今日の帰り銀行行って積むつもりですよ」
その時、昼休みが終わりを告げるチャイムが鳴った。
「よし、行くか」
「授業、だりー」
二人は腰を上げ、屋上を後にした。
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