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第8話
雪柊は銀行のATMに向かうべく、街中を歩いていた。
この辺は英信高校という悪の吹き溜まりが集まる高校が近くにあり、治安があまり良くない。
さすがの雪柊も警戒し、英信らしき学生とは目を合わせないようにしていた。
が、目の前に明らかに英信の学生と思われる柄の悪い男たちが行く手を阻んだ。顔を上げると五人ずらりと並んでいる。
「こいつ、大森中だぜ」
「大森中っていうと、村上九十九が番張ってんだよな」
「オレ、あいつ好きじゃねえ。なんか中坊のクセにスカしてるしな」
その言葉に雪柊は顔を上げ、キッと男たちに睨んだ。
「おっ!生意気にガン垂れてる、このガキ」
九十九の悪口を言われ思わず頭に血が上ったが、今日は大金を持っている。最悪、このお金を取られてしまう可能性もある。悔しいがここは大人しく退散する事に決め、英信の男たちの横を通り過ぎようとした。
「待て、コラ!」
肩に担いでいたスクールバックを掴まれた。
「離せよ」
荒っぽく手を振りほどいた拍子にスクールバックが男の手に渡ってしまった。
(ヤバイ、あの中に金が……!)
「通行料払ってけ」
そう言って男は雪柊のスクールバックを開け始めた。
「や、やめろ!」
「何焦ってんだ?怪しいな」
ニヤニヤといやらしい顔を浮かべ、中を漁り始めた。
その瞬間、男に殴り掛かっていた。
「やりやがったな!このガキ!」
とにかくバックを取り返して逃げようと思った。だが、五人相手では分が悪過ぎた。
「おっ!こいつ五万も持ってる!」
「マジか!ちょうど一人一万だな」
「返せ!」
最後の力を振り絞り、男たちに殴り掛かった。
「こ、こいつ!五人相手に……!」
ヒビが入った肋骨が痛み、思わず地面に膝をついてしまう。
(くそ……!肋骨さえ完治してれば、こんなザコに……!)
最後は袋叩きにされ、お金も持って行かれてしまった。
男たちが去って行き、痛む体をやっとの思いでお越した瞬間、涙が溢れた。
睡眠時間を削って働いたバイト代が一瞬にして消えてしまった。
投げ出されたスクールバックをズルズルと引きずり、力なく歩き始める。何も考えたくなかったが、それでも涙は止まらなかった。
「雪柊!」
低いマフラー音が聞こえたと思うと、名前を呼ばれ顔を上げた。バイクに跨った九十九と後ろに乗っているのは佐島だった。
「どうした!何があった⁉︎」
二人はバイクから降り雪柊に駆け寄った。
「つぐ……もさ……ん」
九十九の顔を見た途端、九十九に抱きつき声を上げて泣いた。
「金……英信の奴らに……」
「何⁈英信の奴らに盗られたのか⁈」
雪柊は頷き、また声を上げて泣いた。
「どっち行った?」
雪柊は九十九の顔を見て、涙が一瞬止まった。
冷静そうな声とは裏腹に、据わったような目の奥は怒りを露わにし、殺気立っている。顔は怒りのせいか血の気が引いていた。
自分に向けられていないと分かっていながらも、背筋がゾッとする形相だった。
雪柊は首を横に振り、もういいんです……、そう言って九十九から離れる。
「いいわけねえだろ!」
「九十九よ、相手が悪い……英信じゃ」
佐島が九十九を宥めようとするが、
「中坊相手にカツアゲして、英信だろうが何だろうが許されるわけねえだろ!」
雪柊も分かっていた。目の前にはルシファーのライダースに身を包んでいる九十九と英信高校がぶつかればどうなるのかを。ただの中学生と高校生のケンカではなくなる。
ルシファー対英信高校の抗争に発展する可能性もあり得るのだ。
九十九は佐島に雪柊を託すと、バイクに跨りエンジンをかけた。
「九十九!」
「九十九さん!いいんです!もう!」
大声を出した事で肋骨に痛みが走り、顔を歪めた。
ブォン!と大きく一つ吹かし、目の前を猛スピードで走り抜けて行った。
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