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第40話
二人はお互いの白いもの出すと、
「すげー、気持ち良かった……」
一はしばし、ぼうっとする。
「……手、洗ってくるね」
そう、結弦が言うと、オレも、と二人で洗面所で手を洗った。
リビングに戻り、
「さっき見た事は、二人だけの秘密にしておこう」
二人はどちらともなくそう約束した。
借りてきたDVDを観ようとレコーダーにセットした時、上半身裸にスウェットパンツ姿の九十九が階段を降りてきた。
「帰って……たのか」
少し、面食らったような顔をしている。
胸元と首筋には、雪柊が付けたであろう赤い跡が点々と散っていた。
「うん、今、帰ってきた」
明らかに、九十九が一の言葉に安堵したのがわかった。
「雪柊のアニキ、来てるんでしょ?」
「ああ……今は眠っちまってるから、後にしろ」
そう言って、風呂場へと消え、しばらくすると
風呂から出た九十九は何も言わず二階の自室へ戻って行った。
一と結弦は少しホッとし、テレビ画面に目を向けた。
ふと、一は結弦に視線を向けた。少し口を開けて、夢中でテレビの画面に釘付けになっている。
結弦は突然なぜあんな事を言ったのか、ふいにそんな事が過った。
思春期真っ盛りの中学生二人だ。そういった性的な事にも当然関心はある。
あまり、深く考える必要はないのか、と一は思う事にしたが、慰め合っていた時の結弦の顔が浮かぶ。
顔を蒸気させ、今、テレビ画面を見て口を少し開けているように、僅かに開いた口から、気持ち良さそうな声を洩らしていた。可愛いと思った。
一はその思考を振り払うかのように軽く頭を振り、テレビに視線を戻した。
しばらく夢中になって観ていると、
「何の映画観てんだ?」
少し掠れたような雪柊の声が聞こえ、二人は振り返った。
白いタンクトップ姿の雪柊が階段から降りてくる。その首筋には、当然のようにいくつもの赤い跡がある。九十九の比ではないその跡を見て、九十九の雪柊に対する強い独占欲を垣間見た気がした。
「雪柊のアニキ、ちわっす」
「こんにちは、雪柊さん。ホラー映画です。一緒に見観ませんか?」
「ホラー?ああ、そうだな。シャワー浴びたら観る」
そう言って風呂場へ向かうその背中には見事な天使の羽根のタトゥー。雪柊にとても似合っていると思った。中心は見えていなかったが、九十九に抱かれている時に見た背中に、九十九をイメージさせる《99》の数字が目に焼き付いている。
雪柊が出てくると、三人はソファに並んで映画を見る。
「九十九さんは観ないのかな?」
結弦が上に目線を向ける。
「あー、アニキ、ホラーダメだから」
一が手を横に振る。
「この手のダメなんだよな。見かけによらず」
雪柊も呆れ顔で言った。
三人は、四代目ルシファー副ヘッドにも苦手な物がある事に、笑いがこみ上げた。
おそらく、九十九の弱点はホラー物と目の前の白石雪柊なんだろうと、一と結弦は思った。
いつまで経っても部屋に戻ってこない雪柊に、九十九は痺れを切らし、リビングの様子を見ようと部屋を出た。どうせ、一と結弦に捕まっているのだろう。
階段を途中まで降りると、「キャー!!」という女性の断末魔が聞こえ、思わず九十九は大きく肩を揺らした。
階段からリビングを除くと、可愛らしくソファに三人が並んで、テレビ画面に夢中になっていた。
テレビ画面には、血塗れの女の顔がどアップになり、再び九十九はビクッと肩を揺らした。
九十九はこの、何の前触れもなく突然大きな音がするホラーが大の苦手だった。
あの三人に混ざる事はできない。
雪柊もすっかり九十九の存在を忘れているのか、テレビ画面から視線を逸らす事もしない。
(ちぇっ、オレの雪柊返せよ、バカ弟)
階段の途中で腰を下ろし、不貞腐れた様に頬に手を乗せ、可愛らしい三人の後ろ姿を見つめた。
そして、また「キャー!!」という断末魔が聞こえると、耐えきれなくなった九十九はそそくさと自室に戻って行ったのだった。
終
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