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第8話
久しぶりにきた指導室は、俺たちが通っていたときのまんま。
室内の中央に、大きめのテーブルと数脚の椅子。
両サイドに設置してある本棚には、赤本や大学入試に関する参考書がずらりと並んでいる。
横井先生が椅子に座ったので、俺も先生と対面する形で椅子に座った。
「えーっと、それで、牧瀬についてだったな」
横井先生の、少し勿体ぶるような言い方に、俺はイラッとした。
「先生は、分かってるんでるよね。俺が何でここにきたのか。何で菜生のこと聞きにきたのか」
それは俺の声に如実に現れていた。
横井先生は苦笑いをし、窓の方を向いた。
「分かっているといえば分かっている。分かっていないといえば分かっていない」
聞こえてきた曖昧な回答。
「先生、俺は!」
益々苛立った俺が、声を荒げ文句を言おうとしたとき、先生は、薄水色の封筒をテーブルの上に出した。
俺はその封筒をジッと見る。
何だ?手紙?
そう思ったのが伝わったのか、横井先生がぽつりと言った。
「牧瀬から預かった。……里見宛の手紙だ」
俺は、バッと目線を先生に戻す。
「もし里見が俺のところにきたら、コレを渡してくれと牧瀬に頼まれてな」
横井先生は、右手を滑らかに滑らせ、手紙を俺の前にもってきた。
「先生が知っているのは、それだけだ」
先生の右手が、ゆっくりと離れていく。
その右手が、完全に膝の上に移動したのを確認して、俺は菜生からの手紙を両手に持った。
ゴクリと唾を飲む。
震えそうになる手で、手紙を開ける。
中に入っていたのは、三つ折りになった一枚の便箋。
その色は、封筒と同じ薄水色。
一旦目を閉じて、自分でも分からない何かを懇願する。
そして、覚悟を決め、目を開け、便箋を開いた。
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