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第7話

あまり良い思い出のない扉の前に立つ。 俺は、ひと呼吸おいて、扉を開けた。 「失礼します」 「あら、里見君!卒業したのに、またココに来たの!」 大柄で快活な女性が、笑いながら俺の方へやってきた。 「村岡先生、昨日ぶりです」 よく呼び出しを食らっていた俺は、職員の間でも有名で。 ただ、この村岡先生は、俺が職員室に来るたび、冗談を言いながら可愛がってくれていた。 「里見君、どうしたのそんな顔して」 基本ヘラヘラ笑っている俺が、いつになく真剣な表情だったからか、村岡先生は少し驚いた様子だった。 「えーっと、ちょっと…。ところで、横井先生いますか?」 「あ、うん。横井先生ね」 いつもと違うと感じた村岡先生は、すぐに横井先生を呼びに行った。 隣りの席の教員と話していた横井先生は、村岡先生に肩をたたかれ声をかけられると、俺の方振り向いた。 そして、細いタレ目を、より細くさらに目尻をさげ、俺の傍にきた。 「おー、里見!どうした?」 優しく笑う横井先生に、やっぱり知らないかと思いつつ聞いてみた。 「先生、牧瀬菜生のことについて、何か知りませんか」 すると横井先生は、下げていた目尻を元の位置にもどし、細い目を開け、 「ここだと話せないから、指導室に行こう」 そう言って、指導室の鍵を取りに行った。 菜生は、よく横井先生に進学相談をしていた。 担任でもあるが、馬が合っていたのだろう。 どこか大人びていた菜生が、横井先生と話しているときは年相応の顔になっていた。 それに少し嫉妬して、菜生を困らせていたのが、今は懐かしい。 「さあ、行こうか」 指導室の鍵を持って再び俺の前に現れた横井先生は、村岡先生にひと言告げて、俺と一緒に職員室を出た。

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