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第6話
「スミマセンッ!牧瀬 ッ、牧瀬菜生 に、会いたいんですが!」
寮の事務室にいた職員が、一斉に俺の方を見る。
スマホから流れたあのアナウンスを聞いて、俺は直ぐさま寮に向った。
「あの…面会でしたら、こちらの方にお名前を…」
受付窓口にいた女性が、恐る恐る俺に話しかけてきた。
「いやいや、面会とか、そういうんじゃなくて!」
思ったよりも大きめの声を出してしまった。
「えーっと…」
女性が、困惑した表情で言葉を詰まらせていると、
「ん?里見君?」
「糸永先生!」
声がした方を振り向くと、寮に在中する教員が立っていた。
「糸永先生、お知り合いですか?」
「ああ、田中さん。この子は、昨日ここを卒業したばかりの生徒です」
糸永先生は、受付窓口から不安そうに顔を覗かせる田中という事務員に、にっこりと笑いかけた。
「糸永先生、俺、牧瀬に会いたいんですが…」
ゆったりとした糸永先生を見て、少し落ち着こうと思ったが、
「牧瀬君?牧瀬君なら、今朝方退寮しましたよ」
「えっ、退寮?」
「はい」
糸永先生の耳を疑う言葉に、落ち着くどころか、一気に頭の中が真っ白になった。
「退寮は来週じゃあ……」
「牧瀬君は、今日、3月10日で、届出を出してましたが……」
「うそ、だろ……」
「どうかしたんですか?」
俺の様子がおかしいと思った糸永先生は、心配そうに俺を見る。
「あ、いえ、今日彼と約束をしていたんですが、連絡が取れなくて……」
「そうなんですか」
「あいつ、今朝、退寮するとき、何か言ってませんでしたか?」
「んー…特には…。変わった様子もなかったですし……」
眉を寄せ、目線を左にして考える糸永先生。
「糸永先生、別のあてを探してみます。もしかしたら、あいつの虫の居所が悪いだけかもしれないし。ありがとうございました」
「……分かりました。それでは、また何かあったら連絡くださいね」
「はい。すみません。ご迷惑をお掛けしました」
俺は、何か言いたそうな糸永先生と事務の田中さんに頭を下げて寮を後にした。
分かっている。
菜生は、事故や事件に巻き込まれた訳ではない。
自分の意志で、俺の前から去ったのだ。
ただ、理由が全く分からない。
昨日もいつも通りだったのに。
俺は、最後の望みをかけて、菜生と出会った校舎へ向かった。
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