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「お店の方はいかがでしたか?」  目の前で指を組んだまま小首を傾けて問う准に、尊彦は柔らかな笑顔で応えた。 「とてもいい経験をさせていただきました。ストレスからの解放……。自分を苦しめていたストレスが何だったのかはっきり分かった気がしました」  尊彦の中に眠っていたM性。それをミコトに目覚めさせられ、ネコとして新たな喜びを知った。 「それはこれからの改善に役立ちますね」  黒縁眼鏡の奥の栗色の瞳が興味深げに見開かれると、尊彦は手をそっと伸ばして准の手を取った。 「俺が抱えていたストレス――それは新卒者のことじゃない」 「え……?」  驚いたように息を呑んだ准は突然立ち上った尊彦を見上げた。尊彦は彼が掛けていた黒縁眼鏡に指を掛けて外すと、露わになった准の素顔に吐息した。慌てて顔を覆うように腕を押し当てた准を見つめた尊彦はその腕を優しく退けて問うた。 「――ミコトは君なんだろ? 准……」 「……っ!」 「俺が抱えていたストレス。それはね……君に『好きだ』って言えなかったこと。あの夜、ミコトは俺を「愛している」と言ってくれた。その言葉がサービストークなんかじゃないって確信した理由はね、俺の中に入った君の熱さ。本番はしないって聞いてたのに……まんまと処女を奪われたよ」  准はしばらく何も言わずに尊彦を見つめていたが、自嘲気味に口元を綻ばせると「バレちゃった」と舌を出して見せた。  カウンセラーもイメクラホストの顔も……どちらも本物。准もまた一目惚れした尊彦に言い出せない想いを抱えたまま過ごしていた。二人のストレスがぶつかり合い、それが弾け飛んだ夜――大きく膨らんだ真実の愛が実を結んだ。 「少しは楽になった?」 「ああ……スッキリしたよ。でも、まだわだかまりは残ってる」 「それ吐き出したらスッキリするかもよ。俺、ちゃんと聞いてあげる」  身を乗り出して尊彦に顔を近づけた准は、すぐそばにある彼の息遣いを感じてそっと目を閉じた。  渇いた唇が重なって、互いの舌が何かを確かめるように絡み合う。  銀色の糸をひいて離れた尊彦の唇が綺麗な弧を描きながらゆっくりと動いた。 「――一緒に暮らそう。ストレス・フリーな新生活。二人で……これからずっと」  尊彦の言葉に少し照れながら頷いた准は意地悪げに目をすっと細めると、彼の頬に手を添えて唇を重ねながら言った。 「俺を死ぬまで愛して……。この可愛いメス豚野郎っ!」

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