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幸せな復讐を
「驚いた? 君はいつも彼と仲良く歩いていたから、こちらを見たことはなかったしね」
「あの……もしかして僕のことを、全部知って? 」
「それはどうかな。俺は君の全ては知らないけれども、君が昨日公園で激しく泣いて、今日からはひとりで通勤して行くのは知っているよ」
「……」
「急な誘いかもしれないが、よかったら今度一緒に食事でもどうかな。この意味、君なら分かるよね」
「でも、僕はまだそんな気分では……」
「それは分かっているよ。簡単ではないのも知っている。培った大切な思い出を、いにしえの思い出にするのには時間がかかる。だから、よかったら俺と友達からスタートしてみないか」
まさか通勤途中に、こんな出会いがあるなんて。
軽くパニックを起こしつつも、昨日彼が知らないふりをして励ましてくれた優しさが心に響いた。
「あ……あの、とりあえず、あなたの名前を知りたいです」
「俺は宗吾だよ。滝沢 宗吾(タキザワ ソウゴ)。よろしくな」
「僕は……」
「ミズキくんだよね? 」
「えっ、何で知って? 」
「……彼がいつも愛おしそうに、そう呼んでいたからだ」
「うっ……」
思わず泣きそうになった。
周りからそんな風に見えていたなんて、知らなかったから。
僕はちゃんと一馬に愛してもらっていた。そのことを教えてもらった。
「瑞樹か……新緑の季節にぴったりのいい名前だね。俺もそう呼んでいいか」
「あ……はい」
なぜだろう。昨日の今日でこんな展開、予想していないのに、嬉しく思うなんて。彼を拒めない。拒むどころか僕も、もっと知りたくなっていた。
「瑞樹くんの『幸せな復讐』に、ゆっくりでいいから協力させて欲しい」
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