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第5話
遂に私が東京に帰る日が来た。
見送りに来たKは泣きじゃくって、「僕は絶対に東京に行くよ」と何度も繰り返していた。愛らしいその華奢な身体を抱き寄せて、額に触れるだけのキスを贈った。
Kは東京に来るだろう。私を求めて。
Kは滞在中、毎日気狂いの様に私を求めた。
「E以外は要らない。今直ぐにでも東京に行きたい。学校なんて行かなくて良い」
等と言うのに、学校位は行きなさい、と諭す私を非難がましく見詰めて、涙を流していた。
来年の春にはKは東京に来る。それは確信している。Kの魂は既に私に縛り付けられて、離れる事が出来る訳が無い。
Kは最初に何を間違えたのだろう。最早、Kは気狂いにしか思えなかった。私を求めて止まない青年は、遠く夜行バスに揺られて、私の住んでいる街に来る事は予想出来る。それが早いか遅いかは時間の問題だろう。
私はKを迎え入れる為に引っ越さねばならない、と思った。今の部屋ではKと住むには狭過ぎる。もう少しアルバイトを増やそう。契約社員でも派遣社員でも良い。働こう。
私もKとの肉欲に溺れ、狂っている。愛しいK。可愛いらしいK。私を求めるKの身体も心も魂も、全てが私を惹き付けて止まない。Kの居ない日々は空虚でただただ彼が東京にやって来るのを待ち続けるのだろう。
抱き締めあった私とKは、夜行バスが発車するまで小さくなる姿を手を振って見送っていた。
Kと私の生活は、いつからになるだろう。
もしかしたら、明日にでもKは東京に来るかもしれない。そうしたら、毎晩私はKを抱き締めて眠る事になる。
夜行バスの中でもう見えなくなったKの肢体を想像し、うとうとと微睡み、Kとの新しい生活を夢見た。
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