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第3話
「彼女が作ったんですか?これ」
素朴な疑問を投げかけてみた。
すると何故か異様に慌てて長谷部は否定した。
「ちっ違うよ!母親が作ってくれたんだ。第一俺、彼女なんかいないしさぁ……」
困ったように頭を掻いてる。別にあんたに彼女がいようといまいと興味ないしどうだっていいよ。
「じゃあ生徒の中で誰か探しなよ。先生のこと気にしてるヤツ、いっぱいいるよ」
適当にそんな事を言ってやったら、なんだか向こうがムキになってきた。
「そんな……あのね、俺は確かに彼女はいませんよ。でも、好きな人はちゃんといるんです!」
ちょっとむっとしたようにきっぱりと言い放った。俺、なんで怒られてるんだろう?
「ああそうですか。けどそんなん俺には関係ないんでね。どうもごちそうさまでした」
そう言って立ち上がろうとしたら、手を掴まれた。
「何するんですか」
ぎろりと見下ろしたその先の長谷部の顔は、ドキッとするぐらいきれいで、俺は怖くなって力いっぱい手を振り解いた。
だって、俺を見上げる顔が、あまりにも、あまりにも……。
「刈谷、もうちょっとここにいない?」
「嫌です、みんなのところに戻ります」
「……そう」
肩を落とし、俺を見上げていた目が下を向いた。繋がれていた手の力が解け、俺は解放された。
けど、みんなのところに戻る気になれなかった。
こんな長谷部を一人置いて行けない、そんな馬鹿馬鹿しい想いに駆られてしまった。
不思議な人。大人で、イヤミったらしくて、優しくて、よく気がついて、誰からも好かれる、それでいて強引で、幼くて、頼もしくて、その一方ではか弱いくて儚げな人。
「……ごめんな、ヘンなこと言って。俺も片付けたらすぐ行くから、みんなのところに戻って」
いそいそと弁当箱を片付ける長谷部をの背中が不思議といつもより小さく見えて、俺も片づけを手伝った。
「いいよ、刈谷は戻って」
「食べたら後片付けするのは当たり前ですから」
「意外と真面目なところあるんだ」
少しからかうように笑う長谷部を無視して、俺は仏頂面のまま手際良くさっさと片付けを終えた。
「……なあ、なんでいっつもそうなの?お前、ほんとはそんなヤツじゃないだろ?」
そんなことをいきなり言われて、はっとして長谷部の方を見ると、ぞくりとするほど真剣な、全てを見透かしているような目で俺を見つめていた。
「ほんとは、って……本当の俺、知ってるんですか?」
偉そうに。
ムカついた俺は挑戦的に言い放った。
「知らなーい」
今度は急にいたずらっ子のような表情になって、しれっと舌を出す。
「だから、これから知りたい。刈谷がどんな子なのか、もっと知りたいんだ」
そうかと思えば、今度は妙に艶っぽい伏し目がちな瞳で、こう言うのだ。
俺は混乱してわけがわからなかった。
今自分が話している相手は一体誰だ?何の話をしているんだっけ……?
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