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第4話
「つまり、刈谷の全てを知りたいってことだよ」
きょとんとしている俺に、もう一度ご丁寧に解説してくれた。
ふふふといやらしく笑っている長谷部。馬鹿にされた気分だ。
「いいよ。そんなに知りたいんなら調べれば。お好きにどうぞ」
これ以上付き合っていられない。それじゃ、と立ち上がろうとする俺はまたも長谷部に腕を掴まれ、
しかもなんと……
抱きしめられてしまった。
何をするんだと拳を作ろうとしたとき、長谷部がとろけそうな笑顔で言った。
「胸板は、思ったよりも薄っぺらかったな。さて次はどこを調べようかな?」
『全てを知りたい』って……つまりそういうことだったのか?!
俺……お好きにどうぞとか言っちゃったけど。
やばかったかな……。
「あっ、そろそろ集合時間だ。行かなきゃ」
長谷部が腕時計を見てハッと立ち上がる。俺は何となくホッとしたような、ちょっと心残りなような、複雑な感じだった。
「先生……なんで俺のこと知りたいなんて思うわけ?なんで俺なの」
素朴な疑問をぶつけると、長谷部はいやだなぁ、とでも言いたげにふっと笑った。
「何言ってんの。そんなの好きだからに決まってるでしょうが。他の誰でもなく、俺、長谷部貴之は刈谷悠一を愛してしまったのでした!」
──本気で言ってるのか??
言う相手間違ってるんじゃないだろうか……。
生徒であって自分の教え子で、しかも自分と同じ男だって、理解した上での発言なんだろうか。言い方が変に冗談めかしているのも気になる。もしからかわれているのなら、セクハラ諸々で訴えてやるからな。
「それにしても嬉しかった。刈谷がこうもすんなり俺の気持ち受け入れてくれるなんてなあ~」
……えっ?
「『好きにして』なんて言われたら、もう理性飛んじゃうよ。これからは時と場合を考えて挑発するようにな」
こら!なんでこいつはこうも事実を歪めて解釈してるんだ?
「待って、俺はそういうつもりで言ったんじゃ……」
「俺のこと、嫌い?」
「嫌いって……」
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