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第5話
何故か答えに詰まってしまった。
確かに第一印象は最悪で、ずっと憎らしく思っていた。
バカにしていたし、関わり合いになりたくなかった。
──全て過去形なのは、何故なんだ。
「嫌いじゃ……ない」
多分。
俯いてそう言うやいなや、長谷部は周りに人がいないのを良い事に、またがばっと俺を抱きしめた。
「うぁっ、な、やめろ!!」
あまりに強い拒絶に、長谷部は弾けるように俺から離れた。
「……ごめん」
あんまりしょぼくれるから、なんだか俺が悪者みたいに思えてきた。
「そ、そういうことは、いきなり急にとか、人がいるとことかでは、しないで欲しいかな、って……」
なんで俺がこんなに気を使ってるんだ、誰だってあんなこといきなりされたら驚くだろう?それも、同性の、先生にだぞ。だけど
「わかった。良かった、嫌われたんじゃなくって」
子供のように笑う長谷部を見て、なんとなく思った。
俺、初めて会った時から、この人の事好きだったのかもしれないな。
家に帰ってからも頭の中はあいつのことでいっぱいだ。
ただおかしいのは、俺はゲイではないはずなんだ。初恋の相手は同級生の女子だったし、今までの数少ない恋もみんな女の子相手だった。それがどうして、こうなる?相手は男で、年上で、先生って。しかも大嫌いな現代文の。
どうかしてると思う。流されてるだけなのかな。
だけど女子が先生のことキャーキャー騒いでるのがうっとうしいのだって、もしかしたら嫉妬だったのかな……そう考えると、我ながら気持ち悪い。
その日から何が変わったって、いろいろ変わった。先生は学校でもすごくウザ絡みしてくるようになった。もちろん、先生が生徒のする絡み、の範疇だけど。にしても。周りにばれやしないかと俺は気が気でない。生徒にこんな気を遣わすなよ、普通逆じゃないのか……?
二人きりになるとそれはさらにひどくて、ってまあ、二人の時ならいいか、って感じなんだけど……というか、二人の時ならもっといいよ、と思わなくもないんだけど……。
接触と言ったら、肩を寄せ合うとか、並んで座ってるのが近すぎて体の一部が触れている、とか、そんなのしかない。付き合うと決まった時から、俺はもっと、あれやこれやとひとり勝手に先回りして心配したり不安だったりしたんだけど。今やその心配や不安は、疑問や不満に取って代わられている……。
たまに俺のほうからくっついてみたりしたら、そういうのはまだ早いとか何とか言って離れられる。正直、俺だってそんな扱いされたらショックだ。言い寄ってこられたのにこの扱いは何なの?
付き合うって、そういうことじゃないの?触れたり、その先のあんなことやこんなこと、したりするのが付き合うってことじゃないの?それともやっぱり俺みたいな子どもには、そんな気は起こらないってことなのかな。
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