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34 浬委さんとイケメンの噂

「うん、おれも思ってた!」 くるっと首をオレの方に向けて後ろの人に重ねるように発言したのは、笑顔を張り付けた隣の瀬川くんだった。 「えっと……な、中庭の芝生の艶ッとした瑞々しい様子とか凄いなって……!」 見られていたのはしょうがないとしても肯定するのも恥ずかしいので言葉を濁した。 「僕も見てたけど、5回くらいは窓の外を眺めていたよ。玉井くん」 「世話しなく頭を抱えて物思いに耽って時々頬なんて赤くしてたよー、なんか面白かった」 更に、別の生徒がオレの方にわらわらやって来た。それも詳しく説明されて反応に困ってしまう。 ポンと肩を軽く叩いたのは最初に声を掛けられた後方の席の人で、「みんな転校生の玉井くんが珍しくて授業中にこそこそと観察してたんだと思うよ、オレは後ろだから嫌でも目についたけど。あ、オレ中川ね?」 「え、ええ!?」 まさか、授業中に自分の行動を観察してる人たちが居たなんて思ってもいなかった。 両手で顔を伏せて机に沈んだ。 でも誰を見ていたかまでは、分からないと思うんだ……! 「あの席は前は櫂矢くんだったけど、浬委ちゃんに代わってるんだね」 一人がオレの机に来て窓を見て呟いていると、またわらわらと狭い空間に何人も入って来た。 このクラスはみんな人懐こいのかな……。 「浬委姫、こっち見てるけどなんか不機嫌っぽいなぁ。あはぁん。相変わらずツンデレだけど可愛いな」 浬委さんの事をいうクラスメイトについドキドキと心臓が五月蠅くなる。 「玉井くんの目当ては浬委ちゃんだよね?転校早々目が高いよ~あははは」 ドッキーン!と心臓が波立った。 「やっぱなぁ、そうなんだな、男子校の中のオアシスだし。チラチラ見たくなるのも頷けるよ。けど、この席って浬委姫からめっちゃ近いわ」 し、知られてはマズいのかな……今朝の浬委さんの人気ぶりを目にしたら地味で目立たないオレが知り合いなんて……それもお付き合いをしてるだなんて。 「けどさ、マジで惚れんなよ?」 ああ、やっぱりそうなんだっ……! 「浬委姫は学園生の愛でるプチプリだけど、『惚れる』はタブーなんだよなぁ」 「ああ、鉄壁の怪物がな……」 「ってか、そんなツワモノ居たら応援したいな、オレ!」 「「俺も俺も!!」」 「えっと、なんで?」 牽制してるのに応援したいだなんて言っている意味が合わない。つい聞いてしまった。 「浬委姫には強力なバックがついていてな?それが生徒会長で理事長の息子でもある、橘 朱里さんなんだ。で、おまけに浬委姫の従兄弟でもある。怪物…あ、ちげぇ超絶美形の生徒会長は浬委姫に惚れているのは超有名。学園一すげぇタックなんだって!」 あの謎のイケメンの人の事だ……うん…その意味がすんなりとわかった。 「浬委ちゃんは人気者で友人多いけど、あの二人の隙には到底入れないし、思いを寄せて撃沈する奴ら多数なんだよ。まったく叶わないって!だからココロ沈む前に忠告しとくね☆」 万弁な笑顔で説得される隣の瀬川くんに癒されることは残念ながら無かった。 「屍くらいは拾ってやるぞ、転校生」 とても心が痛くなる複雑な情報だった。 だから、人気者の浬委さんと歩いていても空気のオレになるんだ……。

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