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35 あれは紛れもない触手だよ

(浬委視点) 思いのほか、尚史くんと僕の席が直線上に繋がってる!なんて素晴らしいんだ。毎日毎分毎秒で尚史くんとアイコンタクトなんてことが出来ちゃうだんから。 僕は中庭を通り越して一つの光が放つ2年V組の窓、その見え隠れする尚史くんの席を見ては鼻歌なんて歌っちゃう気分なんだ。もちろん讃美歌愛のテーマだよ! 授業中にもなんだか尚史くんが見ているようでつい、V組に視線を向けたら尚史くんも僕の方を見ている、よね?気のせいじゃないよね? 小さく手を振ると尚史くんも恥ずかしそうにして手を振ってくれる。 最初は尚史くんと学科が違ってクラス編成もままならないと知った時にはこの世に絶望したけど、声は聞こえなくてもこんなに姿や視線を感じることが出来るのだもの、文句は云えない。 「浬委!そこオレの席だって言ってるのに~っ!ちょ、いつの間に荷物全部替えてんの!!」 系列の幼稚舎からの幼馴染みで腐れ縁でもあって親友の佐伯櫂矢クンが僕にケチな事を言う。 「だってぇ……尚史くんがあそこにいるんだよ?この僕の席の直線上に尚史くんの席が見えるなんて奇跡でしょ?」 「ちがーう奇跡じゃないだろ!知ってるからオレ、浬委が学年総長の松井にわがまま言ってごねてるの見たからな?堅物で有名な松井に何を言ったかしらねぇけど――「ああ!?」ふん?どした?」 「尚史くんがっ…襲われてる!」 「あ?」 モ、モブたちに尚史くんが迫られてる!…違うね、迫られてるなんて生易しい物じゃない。 アレはなんだっけ……えっと左右四肢上下からわさわさ出て来る手みたいな――しょ、しょく 「触手だ!!」 「「「浬委姫、はしたないからっ」」」 「?」 僕の背後に後方支援みたいなクラスメイト達がわさわさと集まってきて、彼らの腕が僕の口に伸びて防ごうとする。……なんなの!? 「ああ、まさしく浬委のソレな」 分けわからないことを呟いてる櫂矢なんてほおっておいて、僕の背後に立つ後方支援の手をパッパッと避けるのに忙しくて尚史くんを見失ってしまう。 次の時間には尚史くんの教室に行くからね!触手をどうか跳ね返すことが出来ますように――! なんて思っていたら、次の授業は免除になって生徒会……学園の執行部の仕事だと言って僕の教室にやってきたのは生徒会長の朱里だった。 実はこれでも僕は生徒会の書記としての役員だから、集合が掛かると有無なく連れていかれる。僕は真面目なので欠席はほとんどしないけど――。 「僕は、忙しいんです」 「執行役員の仕事以上に何が忙しいんだ?もうすぐ体育祭だろう、一時限を返上して役員会議を行う。お前だけの欠席は認めないからな」 「モブの触手から守るのが僕の一番の仕事で大切な任命です――!」 フッて軽く笑った。いくら睨みを効かせても朱里には効き目がないことは知っているけれど。 「夢見る妄想の時間はひとまず終わりだ。ほら、佐伯も行くぞ」 「うおっ!何処触ってるんだ、クソ変態野郎!!」 当然と云うように櫂矢の尻を触ることを忘れないセクハラ会長! まったくリコール出来ないかな。この生徒会長。

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